2024.10.25 政策研究
第55回 組織性(その1):設立・解散
アメリカにおける市町村設立手続
これらの点はアメリカの市町村(municipality, city, town)との大きな違いとされてきた。アメリカの市町村は、基本的には、法人設立(incorporation:法人化・団体化)によって設立されるものであり、それだけ、社団法人・財団法人・営利法人に近しいものであろう。逆にいえば、日本の自治体は、法人ではあるものの、社団法人・財団法人又は営利法人とは、異質の組織の傾向が強い。
例えば、ワシントン州の自治体法人設立手続は、以下のとおりという(4)。ワシントン州憲法11条10項は、市町村が法人化するための基本的権限と、州議会が法人化の手続を規定する法律を制定するための権限を規定する。州法では、人口が1,500人以上の地域は市として法人化(設立)できるとされている。ただし、地域が人口1万5,000人以上の市の境界から5マイル以内にある場合、法人化するには少なくとも3,000人の住民が必要である。なお、2023年7月23日から2028年6月30日までは、この制限が解除される。
法人化の基本手順は、ワシントン州改正現行法典(Revised Code of Washington(RCW))第35編(Title)「市と町(CITIES AND TOWNS)」第35.02章(Chapter)「法人化手続(Incorporation proceedings)」の各条に定められている。法人化請願書(Petition for incorporation)の提出、境界審査委員会(Boundary review board)又は委員会のない郡の郡立法機関(county legislative authority)による審査(review)、公聴会(public hearing)、投票(election)がなされる。有権者が法人化案を承認した場合、市議会(及び市長=議会制の市では市長)の候補者を指名する予備選挙と、その後、市議会を選出する選挙を実施する必要がある。新しい市は、最初の市議会が設定した日付で、法人化投票から360日以内に正式に法人化する必要がある。
法人化請願書は、提案された市町の境界内に居住する登録有権者の少なくとも10パーセントが署名する必要がある。提案された市町のすべて又は大部分が所在する郡(county)の監査役(auditor)に提出しなければならない。請願書は、提案された法人化に関する公開会議(第35.02.015条)に基づいて開催された日から180日以内に提出しなければならない(第35.02.020条)。
法人化請願書には、①非憲章市(noncharter code city)(第35A編)か憲章市町(第35編)かの明示、②市町が持つ予定の政府形態・計画、③提案された市町の提案された境界の提示と具体的説明、④提案された市町の名前、⑤住民数、⑥市町法人化の請願すること、を記載する。提案された市町が複数の郡にまたがる場合、請願書は署名者が居住する各郡を示さなければならない。憲章市町(第35編)に基づく市町は、首長=議会制、議会=管理者制、委員会制の政府形態が可能である。非憲章市(第35A編)は、首長=議会制又は議会=管理者制の政府計画があり得る。請願書が①を明記していない場合、提案は非憲章市とされ、②を明記していない場合、提案は市長=議会制の政府形態・政府計画とされる(第35.02.030条)。
市町村の設立を住民発意の法人化による場合には、市町村による市町村の設置という循環論法は避けられる。もっとも、そうはいっても、州憲法・州法による授権・手続が必要になってしまう。その場合には、州自体を州民が設立することが必要である。しかし、そのような授権・手続は、州憲法自体を離れれば、どこにもない。