2024.09.25 議会運営
第94回 調停に係る議会の取扱い
そもそも調停には、民事調停法に基づく民事調停、労働関係調整法に基づく労働調停などがある。
本件は民事調停であり、民事調停とは、裁判官及び調停委員により構成される調停委員会が、紛争当事者双方の言い分を聞き、仲介・あっせんをすることにより、紛争当事者による自主的解決を図ろうとする制度をいう。民事調停は相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とされるため、地方裁判所又は簡易裁判所に申し立てられる。
民事調停はその種類として、①当事者の申立てによる調停(民事調停法2条)、②受訴裁判所による調停に付することを決定することによって開始される調停(民事調停法20条1項)によるものがある。
調停機関は原則として調停委員会であり、調停委員会は調停主任1人と民事調停委員2人以上で組織され、調停主任は、裁判官の中から地方裁判所が指定し、民事調停委員は、裁判所が各事件について指定することとされている。なお、民事調停委員となる者は、弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢40年以上70年未満の者の中から、最高裁判所が任命することとされている。例外として裁判官のみの場合もある。
民事調停の効力は、調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有するものとされている。
なお、和解には裁判外の和解と裁判上の和解の2種類がある。すなわち、①裁判外の和解とは、民法695条に規定されている契約の一種であり、裁判所は関与せず、当事者間で問題解決のためにお互いが譲歩して、和解成立以降はその問題について争わないことを合意すること、②裁判上の和解とは、裁判所が関与し、成立した場合はその内容が和解調書に記載されて、確定判決と同一の効力を有するもの、をいう。裁判上の和解には訴え提起前の和解(訴えを起こす前に、当事者双方が簡易裁判所に申し立てて行う和解で民事訴訟法275条に規定)と訴訟上の和解(訴訟中に当事者が互いに主張を譲歩して、権利関係を認め訴訟を終了させる合意をすることで民事訴訟法267条に規定)がある。
調停に関する手続は原則非公開である。ただし、調停記録の閲覧については、当事者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、非訟事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は非訟事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
本問についてはまず、地方公共団体における民事調停に関する議会の議決は、一般的に訴えの提起と同様に考えるべきであり、調停の申立てをする場合には、申立て前にその方針、内容等も含めて議会の議決を得ることが原則として必要であると考えられる。ただし、調停を受ける側が地方公共団体である場合には、当該調停の申立てを受けた後に、その内容について長が議会に対し調停に対応する方針や状況について説明を行うことが必要であると考える。また、場合によっては調停の申立てに対し、どのような対応をとるかの議会の議決を得ることも適当であると考えられる。
本問では、調停の締結に当たり調停における協議経過や詳細については申立人も相手方も公表しないとする取決めがなされているが、議会は地方公共団体が調停を締結するかどうかを議決する権限を有することから、地方公共団体における当事者の一員であると考えることができ、必要に応じ議会が秘密会で調停内容について審議を行えば、公表することにはならないと考えられる。それゆえ、長としては議会の適切な審議の対応に応じ、議決を得るための調停案の経過説明等を行うのが適当であるといえる。調停案について長から申立人との合意内容により調停案に至る一切の経過説明もなく、議会の議決を求められても、議会としては調停案の締結に至る詳細も分からないまま、地方公共団体の財政に多大な影響を与える当該議案に賛成することは、議決の説明責任を果たす上で難しいといえると考えられる。
地方公共団体の議会としては、長からの調停に至る説明がなされない状況であれば、調停記録の閲覧を、当事者又は利害関係を疎明した第三者として裁判所に申し立て、その許可を得て適切な対応をとることがよいと考える。