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2024.08.26 政策研究

第13回 間接民主制としての自治体議会

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「待つこと」「時間をかけること」の大切さ

 人の心は、環境にも左右されます。ささいなことで発言を変えることも少なくありません。場合によっては、お互いに認め合い心を開くことで本音を引き出すことができるにもかかわらず、ときに相手の立場を無視し、発言する側が一方的・建前主義な言葉を並べてしまっては、話し合いは血の通わないうわべだけのものになってしまいます。
 御厨は、いい回答は「待つ」ことで発酵する、質問者が強引に現場をリードするような展開では決していい回答は得られないといっています(御厨 2011:37)。議員も「待って」発言することが大切です。時間をかけてゆっくりと行う議員の質問、ときには数年をかけた粘り強い複数回の質問は、回答する者や組織の心を発酵・熟成させ、市民にとっても議員(議会)にとっても「いい回答」をもたらします。
 ただし、いつも「待つだけ」では議会の役割を果たすことができません。「待って、待って、待っているだけ」では、議会は力を発揮することができません。議会には、定期的に市民とのコミュニケーションを図ることで、行政と競争・対峙(たいじ)していくことが求められます。議会の沈黙は、議会を孤独に陥れ、市民の利益を逸失することになります。なお、このことは、議会だけでなく行政やマスメディアにも当てはまります。

結び

 本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で、意識すべきものとして、「間接民主制としての自治体議会」と、これらに関する事項について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。

  1. 間接民主制は、〈直接民主制が機能し難いほどに有権者が多く、また意思決定すべき事項が多岐にわたる中でも、現実的な範囲で民意を反映させつつ物事を前に進めていくのに適した政治制度〉です。
  2. 市民の信託に応えようとする姿勢を持ち、議会改革を進める自治体議会は少なくありません。
  3. 「議会だより」は、議会の持つ様々な制度・手法とつながることで、市民と議会をつなぐインターフェイス機能の中核となりえます。
  4. 話し合いは、市民と議会の政治的力量を向上させます。そして、「議会だより」は、これらの場の事前・事後の双方向コミュニケーションの媒体となります。
  5. 議会・議員は「市民にキチンと応答する」ことが求められます。キチンと応答するには、結論と結論に至る(場合によっては結論に至らない)経緯・理由・データ等をハッキリと示す必要があります。
  6. 自治体議会は、①「意見交換会等を実施し効果を発揮している議会」、②「意見交換会等を実施しているが効果を発揮していない・確認できない議会」(=意見交換会等を実施していても問題のある議会)、③「意見交換会等を実施していない議会」に大別できます。残念ながら②、③の議会も少なくないようです。②、③の議会には、①の議会に学び、自分の議会で試行錯誤することが求められています。
  7. 議会及び「議会だより」に応援団をつくることが大切です。
  8. 議会には、議会は市民のために存在するということを前提として活動することが求められています。そのため、議会は市民とのコミュニケーションをとることが大切であり、コミュニケーションをとるために「議会だより」が必要であることを忘れてはなりません。
  9. 政治の本質は調整であるともいえます。ときに調整には、マジョリティ(多数派)志向ではなく、マイノリティ(少数派)志向をとることが必要となります。難病に係る医療費の助成や、生活保護の仕組みも、マイノリティ(少数派)志向をとるからこそできた制度といえるでしょう。あなたの議会では、マイノリティ志向で、議会運営や政策形成がなされているでしょうか。もう一度確認することが大切であり、あなたの議会の政策課題となります。
  10. 「議会だより」にも「話し合い」「組織力」「人脈」「キャリアパス」が求められます。
  11. マイノリティ志向では、「話し合い」が必要になります。また、議会が人の集まりである以上、「組織力」が必要になります。「話し合い」と「組織力」のない政治・行政はすべてが劣化の一途をたどります。同じことは、「議会だより」にも当てはまります。
  12. 議会ごとに議長や議会(事務)局長のキャリアパス(階段の典型的な上り方)を考えることが大切です。首長主導の議会(事務)局長人事であってはなりません。
  13. 多数派の価値観で議論なく決定することは、必ず抑圧をもたらします。このことを踏まえ、会派のあり方、「議会だより」の内容やつくり方についても、検討することが求められています。
  14. 議会活動では何でも常に高い凝集性を求めると問題が生じます。常に党議により議員個々の判断が拘束されることには、党議拘束を一定程度認める立場からも反対の意見があります。憲法に規定されている議員を、規定されていない政党や会派が拘束することはいかがなものかという考えも成り立ちます。議会・議員は、市民の期待に応えるためにも党議拘束のあり方を再考することが政策課題として求められます。
  15. 自治体議会が組織である以上、組織の構成員である議員には、それぞれの立場に応じたリーダーシップとフォロワーシップが求められます。例えば、議長や委員長にはリーダーシップが求められます。
  16. 時間をかけてゆっくりと行う議員の質問、ときには数年をかけた粘り強い複数回の質問は、回答する者や組織の心を発酵・熟成させ、市民にとっても議員(議会)にとっても「いい回答」をもたらします。ただし、いつも「待つだけ」では議会の役割を果たすことができません。議会には、定期的に市民とのコミュニケーションを図ることで、行政と競争・対峙していくことが求められます。議会の沈黙は、議会を孤独に陥れ、市民の利益を逸失することになります。


■参考⽂献
◇後藤田正晴(1994)『政と官』講談社
◇齋藤純一=田中将人(2021)『ジョン・ロールズ─社会正義の探究者』中央公論新社
◇全国市議会議長会ホームページ「市議会の活動に関する実態調査結果:令和4年中」─「広報公聴」(https://www.si-gichokai.jp/research/jittai/__icsFiles/afieldfile/2023/08/07/202317_kouhou.pdf〔2024年7月15日確認〕)
◇全国市議会議長会ホームページ「市議会の活動に関する実態調査結果:令和4年中」─「住民等の議会への参画」(https://www.si-gichokai.jp/research/jittai/__icsFiles/afieldfile/2023/08/07/202318_gikaisannkaku.pdf〔2024年7月15日確認〕)
◇全国町村議会議長会ホームページ「【第69回】町村議会実態調査結果の概要(令和5年7月1日現在)」(https://www.nactva.gr.jp/html/research/pdf/69_1.pdf〔2024年8月3日確認〕)
◇土山希美枝(2019)『質問力で高める議員力・議会力』中央文化社
◇御厨貴(2010)『後藤田正晴と矢口洪一の統率力』朝日新聞出版
◇御厨貴(2011)『「質問力」の教科書』講談社
◇芽室町議会ホームページ「令和5年度『議会モニター制度』の基本的な考え方」「芽室町議会モニター設置規程」(https://mgikai.memuro.net/upload/file/g_committee/file8_1674539094.pdf〔2024年8月3日確認〕)
◇横手市議会ホームページ「議会だよりモニター会議を実施しました」(https://www.city.yokote.lg.jp/shigikai/1001549/1003536/1004358.html〔2024年8月3日確認〕)

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