2024.07.25 政策研究
第52回 参照性(その3):波及
政策波及の相互性
マクロ的な政策波及は、まずは、ミクロ的には先行自治体Xから後発自治体Yに伝播することで生じる。このように見れば、自治体Xは、苦労して政策αを立案したにもかかわらず、簡単に自治体Yに模倣されてしまい、あたかも損をした気になるかもしれない。しかし、政策波及は、そのような単純の一方向な参照ではない。現実には参照は相互作用であり、かつ、それは、それぞれの自治体の利害に適(かな)う。
第1に、政策は伝播する過程において、一定の改変又は改良がなされることもある。つまり、自治体Yは政策α’に部分改良したり、あるいは、政策βへの大幅改造をするかもしれない。このような政策α’又は政策βは、自治体Xから見れば、収集・調査・分析すべき参照対象になる。政策は一度立案・決定したら、そのまま不可変で継続されるものではない。常に、政策執行の課題に直面し、評価を行い、政策の継続や見直しを図るものである。そのときに、自治体Yの政策α’や政策βは、自治体Xにとっての学習対象となり得る。自治体Xとしても、他の自治体が政策の改良に知恵を出してくれる方が、将来的な改善にとって好都合である。
第2に、自治体Xから見て、自治体Yが政策α’又は政策βをしていること自体が、心強い「援軍」になる。つまり、時間的には、自治体Xは、自治体Yを参照することなく、政策αを立案・決定・執行した。しかし、自治体Yに政策が伝播すれば、自治体Xは、あたかも自治体Yを参照対象にして、再帰的に政策αを正当化することができる。「出る杭は打たれる」し、「高い木は風が当たる」ともいう。その意味では、たくさんの杭が出ていれば打ちようもなく、高い木が林になれば相互に防風林になる。自治体Xとしても、自らの利益のためにも、他の自治体に政策が波及した方が、望ましい。
逆にいえば、ある政策αを波及させたくなければ、「小さな芽」のうちに摘み取ることが肝要かもしれない。それは、利益団体の観点からも、運動団体の観点からも、さらには、国の観点からも、同様にいえる。政策αは「蟻(あり)の一穴」や「腐ったミカン」になるかもしれない。したがって、政策αを敵視する立場からも、「大した実害は広がっていない」として静観することが、妥当であるとは限らない。そこで、他の自治体への伝播を防ぐことが、重要な早期介入となる。いわば、感染症対策の「隔離入院」、「クラスター潰し」のようなものである。同様に、政策αを安定的に実現したい立場からすれば、まず、どこかの自治体で実践しただけでは脆弱(ぜいじゃく)で、政策αを他の多くの自治体に波及させることによって、「連環の計」のように政策αの安定性が増す。「一点突破」は「横展開」と結合することが望ましい。
こうなると、個々の自治体にとって政策αの適否を個別に学習して判断する、というミクロ自治の観点は、薄まってしまう。むしろ、マクロ自治として、自治体個体群全体として、政策αを適切と判断するか否か、という発想が前面に出てしまう。しかし、これでは、自治体の多数を、政策α推進派と反対派とが「陣取り合戦」するだけで、個別自治体の実情を離れた全国レベルの政策論議になってしまう。政策波及は、個別自治体の地域実情に応じた固有の政策対応に、悪い影響を与えることもあるのである。