2024.06.25 政策研究
第51回 参照性(その2):調査
視察される行政
行政視察を受ける側の自治体は、労働時間を割いて説明や接遇をしなければならないので、負担が避けられない。それでも一般に、自治体は自治体から視察を受け入れるときには、無償で受け入れる。それに価値がないと考えれば、そもそも視察を受諾しなければよいだけのことである。しかし、視察受入れをビジネスにして、有償で受け入れることもある。例えば、三鷹市の外郭団体である「まちづくり三鷹」の場合には、視察は1人当たり5,000円となっている(3)。また、「三鷹市市民協働センター」では、3人まで2,000円、9人まで5,000円、15人まで8,000円、それ以上は要相談ということである(4)。内容は、施設見学の案内・説明、三鷹市の市民参加と協働のまちづくりの説明、市民協働センターの事業・協働運営の説明であり、1回2時間までである。
無償で時間を割くというコストに対して、視察受入れのメリットは、いくつか考えられる。第1は、職員・首長さらには住民などのプライド・自尊心やモラールを高めることである。全国から視察に値する、つまり「光」があるとされる評判は、承認欲求を満たす。第2に、多くの自治体から妥当性を評価されているということは、当該政策の妥当性を事後的に担保する。通常の調査は、ある政策判断をする前に、他の自治体の情報を妥当性の根拠とするために参照する。視察受入れは、ある政策判断をした後で、他の自治体によって妥当性を担保するべく参照され(せ)るのである。さらに、視察に来た自治体が、類似政策判断を実際にも採用すれば、ますます妥当性は強くなる。第3に、自治体は調査に来た人に逆質問することによって、いながらにして、各地の自治体の様々な情報を収集することができる。そこでは、悩みや課題について、情報交換することができる。
視察受入状況については、例えば、日経BP総合研究所が毎年度調査をしている(5)。それによれば、総合ランキング上位30位などが紹介されている(表)。2022年度の自治体職員・議員による視察の受入件数の1位は、愛知県豊明市の「地域包括ケア 豊明モデル」、2位は岐阜県の「岐阜関ケ原古戦場記念館」、3位は岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」だという。豊明モデルでは、多職種合同ケアカンファレンスに対する視察(特にオンライン視察)が大半を占め、月2回開催するカンファレンスには全国の自治体から視察が集まる。国が位置付ける「地域ケア会議」の先進事例として注目されているという。関ケ原古戦場記念館は、修学旅行・校外学習などの教育旅行の受入れが多く、いわゆる行政視察とは異なるかもしれない。オガールプロジェクトは視察受入れの常連だという。また、新型コロナウイルス禍の影響が残っているものの、視察件数は全体的に回復傾向にあり、先進事例に関する情報収集が活発化しているとのことである。
(1) 例えば、オリンピック準備の視察と称して、オリンピックが終わった東京から、あるいは、しばらくは日本での開催が見込まれない日本各地から、2024年開催都市のパリに向けて視察に行き、エッフェル塔の物見遊山をすることなどである。しかし、さすがに、2023年の自民党女性局のパリ研修は、幼児教育・子育て関連施策の現状を調査することが目的である。とはいえ、5日間の行程(フランスは実質3日間)のうち、実際のヒアリング調査や面会調査は実質3時間程度であり、あとは自由時間、観光、夕食兼結団式、クルーズディナーなどである。エッフェル塔前の写真に写ったいわゆる「エッフェル姉さん」3人は、参議院議員が著名ではあるが、豊中市議・堺市議も含まれている。AERAdot.ウェブサイト。TOP>ニュース>今西憲之・吉崎洋夫「【独自入手】“エッフェル姉さん”研修は実質3時間 公文書から明らかになったパリでの空白の1日」2023年11月24日11:00配信(https://dot.asahi.com/articles/-/207005?page=1)。
(2) もちろん、『易経』は中国古典であるから、為政者は常に王(君主・諸侯)であって、民主主義体制とは相いれないということもできる。もっとも、民主主義体制でも、最高責任者である首相や首長は存在するので、首相・首長に政策提言や献策をすべき臣体がなくなるわけではない。それは、外部有識者・ブレーン・コンサルだけでなく、行政職員や議員であってもありえるだろう。もっとも、議員は首長を「主人」とする「賓客」ではなく、双頭の主人かもしれない。その場合には、議員は賓客を迎えればよく、自ら観光旅行に行く必要はないだろう。
(3) まちづくり三鷹公式ウェブサイト。トップ>カテゴリ>企業情報>まちづくり三鷹について>視察・見学のご案内(https://www.mitaka.ne.jp/company/shisatu01/110/ https://www.mitaka.ne.jp/docs/2022081000395/)。
(4) 三鷹市市民協働センターウェブサイト。TOP>三鷹市市民協働センターの紹介>視察・見学について(https://kyodo-mitaka.org/introduction/visit.html)。
(5) 渡辺享靖(日経BP総合研究所イノベーションICTラボ)「『地域包括ケア 豊明モデル』が3回連続で視察件数トップに」新・公民連携最前線(日経BP総合研究所)ウェブサイト。TOP>特集>全国自治体・視察件数ランキング2023。(https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/102500062/102500001/?P=2)。