地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2024.06.25 政策研究

第11回 民主主義と議会⑥─「利他」「自他」

LINEで送る

相手の立場に立って相手をその気にさせる、「自分の行為の結果はコントロールできない」

 繰り返しますが、相手の立場に立つことは重要です。伊藤は授乳について、いくらこちらが飲ませようとしても、向こうにその気がなければ絶対に飲んではくれないといい、授乳は赤ん坊との共同作業だといいます。そして、うまく授乳できなかったのは、赤ん坊の力を信じられていなかったからですと、自己の体験を述べています。(伊藤 2021:41、50)。そして、この例から分かるように、利他的な行動には、本質的に「これをしてあげたら相手にとって利になるだろう」という、「私の思い」が含まれているとします。重要なのは、それが「私の思い」でしかないことであり、思いは思い込みにすぎないことです。そう願うことは自由ですが、相手が実際に同じように思っているかどうかは分かりません。「これをしてあげたら相手にとって利になるだろう」が「これをしてあげるんだから相手は喜ぶはずだ」に変わり、さらには「相手は喜ぶべきだ」になるとき、利他の心は、容易に相手を支配することにつながってしまいます。つまり利他の大原則は、「自分の行為の結果はコントロールできない」ということなのではないかといいます。やってみて、相手が実際にどう思うかは分からないけれど、それでもやってみることが必要で、この不確実性を意識していない利他は、押しつけであり、ひどい場合には暴力になるといっています(伊藤 2021:50-51)。
 「自分の行為の結果はコントロールできない」とは、別の言い方をすれば、「見返りは期待できない」ということです。「自分がこれをしてあげるんだから相手は喜ぶはずだ」という押しつけが始まるとき、人は利他を自己犠牲ととらえており、その見返りを相手に求めていることになります。「自分自身を、他者を助け問題を解決する救済者と見なすと、気づかぬうちに権力志向、うぬぼれ、自己陶酔へと傾きかねません」(伊藤 2021:51-52)。利他は自己犠牲ではないのです。
 権力志向、うぬぼれ、自己陶酔を防ぐためには、「明日は我が身」意識が有効に働きます。「明日は我が身」意識は、他者を支配しないための想像力となります。この「明日は我が身」からの想像力を育むためには、相手の言葉や反応に対して、真摯に耳を傾け、「聴き・訊(き)く」ことが必要です。伊藤がいうように、知ったつもりにならないこと、自分との違いを意識することが大切です。そこには、こちらの評価軸がずれるような「自分の変化」を経験することや、「他者の発見」が必ずあるのではないでしょうか。伊藤は、「他者の発見」とは「自分の変化」の裏返しにほかならないといいます(伊藤 2021:54-56)。

現代世代と将来世代の「利他」「自他」

 「他者」と「自己」を相互にみんなのものであるコモンととらえることが妥当であるとすれば(図5参照)、個人レベルでも、政府レベルでも、世界レベルでも、勝ち組・負け組という区分け(立場)があることは適切でないことになります。斎藤幸平は、『人新世の「資本論」』の中で、おおむね次のように述べています。資本主義は成長を前提にしており、無限の成長を目指します。けれども、地球は有限であることから「脱成長」が求められます。このままでは資本主義は行き詰まることになります。資本主義は現在の株主や経営者の意見を反映します。そして、今はまだ存在しない将来の世代の声を無視することで、負担を未来へと転嫁し、外部性をつくり出します。将来を犠牲にすることで、現代の世代は繫栄できます。しかし、その代償として将来世代は、自らが排出していない二酸化炭素の影響に苦しむことになると(斎藤 2020)。
 そう考えると、「現代の世代が、今はまだ存在しない将来の世代の声を想像し、負担を未来へと転嫁せず、外部性をつくり出さないこと」、すなわち「現代の世代が脱成長すること」は、現代世代と将来世代の関係が「利他」「自他」関係であることを示しています。
Jichitaigiin_Hatsugen_zu5

出典:筆者作成
図5 自己と他者とコモンの関係

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る