2024.05.27 政策研究
第50回 参照性(その1):比較
自治体為政者による比較
第3に、自治体為政者が自治体間を比較することがある。具体的には、首長、幹部職員、担当職員、議員などである。これも、住民と同じく生活・生業経験から、アドホックに比較することはあろう。例えば、職員は自身の生活している自治体との比較を結果的にできるかもしれない。とはいえ、生活者目線の比較と、公務者目線の比較は異なってくる。むしろ、終身雇用の自治体職員の場合には、事業者・住民などに比べて、はるかに他の自治体の状況を体感しにくい「井の中の蛙(かわず)」になりやすい環境に置かれているともいえる。
それゆえに、自治体間での情報交換が重要になっている。それは、所管課同士の組織的な比較のこともあれば、職務を離れた自治体職員の個人間や自主研究グループ・活動団体での情報交換のこともある。ウェブサイトを展開している職員もいる。あるいは、自治体職員労働組合が、情報交換をする回路になっていることもあろう。
首長・幹部職員も、様々な経歴によっては、他の自治体のことを体感して比較できることもある。しかし、当該自治体プロパー職員出身の首長であれば、職員と大差はないことになるし、民間出身・国出身であれば、民間や国との比較は可能であるが、自治体間の比較につながるとは限らない。もっとも、国出身の首長・幹部職員は、しばしば、他の自治体での勤務経験を持っていることもある。例えば、国の官僚(特に自治制度官僚)は複数の自治体に出向した経験がありえるし、さらには、出向官僚同士の人脈=ネットワークがあるので、情報交換も自治体プロパー職員よりは容易である。ただし、こうした外来・外様の為政者が、他の自治体との比較を振りかざす場合、「生え抜き」の自治体職員や政治家から、かえって忌避されることもあろう。むしろ、自治体の固有性や文脈・組織文化を体得することが、期待されるかもしれない。
議員も、他の自治体と比較することは重要である。首長や職員のように、個人的な経験から比較することもできれば、政務調査活動として比較作業を進めることもあろう。いわゆる「視察」も、本来は、議員が他の自治体の情報を入手して、自身の自治体との比較をする大きな契機になるはずであり、有用な機会に活用できる。しかし、しばしば、こうした活動は、「視察」に名を借りた「物見遊山・観光旅行」になっていることもあり、世論の批判を招くことがある。もっとも、元来の「観光」とは、各国の施策の「光」を「観」ることであり、有意義な視察と比較を期待している。