2024.05.27 政策研究
第50回 参照性(その1):比較
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
自治体の比較可能性
自治体は様々な意味で固有性を帯びている。自治体は唯一無二の存在であり、簡単に比較対照できるものではない。しかし、同時に、自治体は多数性を大きな特徴としている。それぞれに似た面がある類的存在であり、それゆえに比較対照が可能になる(連載第27回~第31回)。もっとも、すでに論じたとおり、どの自治体と比較するのかという対象設定は、一義的ではありえない。むしろ、どの自治体と比較するべきかという決定自体が、個々の自治体において固有性を帯びることがある。
自治体を比較するときには、いくつかの側面がある。
第1は、比較の客体・対象である。一つには、どの自治体と比較するかという前提レベルの決定が必要であり、また、二つには、その上での具体的な比較の作業が必要になる。しばしば、どの自治体と比較すべきかについて、ある程度のコンセンサスや常識があれば、前提レベルの決定自体が問われることはないかもしれない。そもそも、ある程度の比較対象としての前提レベルの合意がなければ、入り口で疑問が生じるから、比較作業の結果が訴求性を持たないからである。もっとも、比較対象を変えること自体、あるいは、比較対象を選択すること自体も、これまでの“常識”又は“思い込み”を改めるため、意味を持つことがあろう。
第2は、比較の主体・視点である。比較を誰がするのかによって、比較した結果の解釈が異なることもある。つまり、同じ自治体を比較対象としても、誰が比較するかによって、意味や評価が異なってくるからである。
第3は、比較の方向である。ある自治体を他の自治体と比較すれば、様々な異同が明らかになろう。このときに、一つには、相違を減らす「横並び」方向での比較があろう。つまり、比較対象の自治体と異なるときに、比較対象に合わせる方向で判断することである。あるいは、比較対象と同じときに、比較対象との差異を生まない方向を目指すことである。比較対象の自治体がある施策を打った場合には、自分も同じ方向で施策を打つという追随につながる。あるいは、周りが施策をしないときは、「様子見」で自分も施策をしないことになる。
反対に二つには、比較対象との差異を生み出す方向での比較があろう。卓越性又は唯一性を目指す比較である。質的には「オンリー・ワン」、量的には「ナンバー・ワン」を目指す比較である。連載第44回から前回第49回(第46回を除く)まで論じた自治体の固有性は、このタイプの比較を前提にしていることもある。もちろん、固有性を打ち出すときに、意識的に比較をする必要はなく、知らないうちに固有性あるいは“癖”や“性(さが)”が発揮されてしまうこともある。そもそも、厳格な意味での固有性は、比較不可能性を意味することでもある。