2024.04.25 政策研究
第9回 民主主義と議会④─結社、複数性、人権、応答性、マニフェスト、レジリエンス
選挙改革と議員利益のジレンマ、ジレンマを超克する信念・勇気ある「市民と政治家」
最後に、どうしたら適正な政治活動を行ったり、望ましい選挙改革をつくり運用することができるのかを考えてみましょう。宇野は、個人(=一人の人間)は分割不可能なものだと考えられてきましたが、むしろ人間(=一人の人間)は分割できると考えます。例えば、経済、社会保障、外交、安全保障、教育などそれぞれのイシュー(争点)によって、支持する政党が異なることもあります。であれば、自分の1票を分けて、6分の1票はここ、3分の1票はここと、違う政党や人に入れるという発想が生まれる「分人民主主義」の議論を紹介しています。また、いい人を一人選ぶのは難しいけれど、この人だけは絶対ダメという人をあらかじめ除外するとか、いいと思う人には何票でも投じられるといった選挙制度もよく主張されるとしています(宇野=若林 2023:234-235)。
他方、古代ギリシアでは、選挙ではなく、くじ引きこそが民主主義にふさわしいと考えられていたことを紹介し、なぜなら「誰もが公共的役割を担う」というランダム性が民主主義の本質と合致している部分があるからと説いています。有権者の意思を特定の個人や政党に代表させていくと、必ず固定化していきます。したがって、適度にランダム(無作為)なものを入れた方が、アイデアや議論も活性化して機能するという発想は十分にありうると宇野は考えます(宇野=若林 2023:236)。
ただ、くじ引きにする場合も含めて選挙制度の再デザインの話は、結局のところ、現行制度の下で選ばれた議員に、その制度を変えることへのインセンティブを与えられないという問題に帰着するとしています。自分が国会議員であることの根拠を掘り崩すようなルール変更は、誰もやりたくないからです(宇野=若林 2023:236)。もちろん、このことは、自治体議員にも当てはまります。このことは換言すれば、「選挙改革と議員利益のジレンマ」といえます。この「選挙改革と議員利益のジレンマ」を超克するには、信念と勇気ある「市民と政治家」が必要となります。
宇野は、ジレンマを突破する一つの道筋としては革命も考えられるが、一発勝負の革命モデルではなく、もっと分散的に、局所的にどんどんルール変更していき、その結果として全体最適を図れるようなシステムのつくり方はできないかと考えます(宇野=若林 2023:236)。松下圭一は、「選挙は革命の日常的制度化」であるといっていますが(松下 1991:89)、外国の選挙と日本の選挙を相互参照することや、自治体選挙と国政選挙を相互参照すること、自治体選挙と他の自治体選挙を相互参照することを通して、選挙制度自体を変えることも「革命の日常的制度化」の一つといえるでしょう。「革命の日常的制度化」である選挙は、流血と大混乱を防ぐことにもつながります。
自治体でも国でも、条件が整ったときに改革(「革命の日常的制度化」を含む)は可能になります。また、改革した内容を維持し継続することができます。そのためには、条件を整えるとともに、条件が整ったときにどのような手順で改革をするかを、あらかじめ検討しておくことが信念と勇気ある「市民と政治家(議員・首長)」には求められます。信念と勇気ある「市民と政治家」は、社会にレジリエンス(回復力、弾力性、適応力)をもたらします(図4参照)。
図4 「市民と政治家」「革命等」「相互参照可能性」「レジリエンス性」の関係