2024.03.25 政策研究
第48回 固有性(その4):政治構造
自治体の政策過程の固有性
自治制度が同一であっても、政策出力が自治体ごとに異なるのは、地域実情が異なるからであろうが、この場合の地域実情とは何であるかである。つまり、自治体間で政策決定・執行が同一であっても、高齢化率や経済状態などの地域実情が異なれば、自治体間で政策出力は変わってくることはある。実は、こうした地域的な政策出力の違いは、国の政策であっても、不可能ではないことは、上述のとおりである。
なお、国の政策が、地域実情を加味できない硬直的なものであれば、地域実情が異なっていても、地域的な政策の違いは生じない。しかし、実は同様に、自治体で決定された政策枠組が、地域実情を反映できない硬直的なものであれば、自治体間で政策出力が同一になってしまう。国でも自治体でも、政策枠組がどのような感度を地域実情に対して持っているかによって、地域実情による異同の現れ方が変わってくる。
硬直的な政策が自治体の地域実情を反映しないときには、もし、意志と能力があれば、自治体は政策を調節して、独自化(カスタマイズ)政策決定をしようとするだろう。この場合には、政策自体が自治体ごとに異なってくる。あるいは、決定された政策枠組そのものは同一のままでも、政策執行の段階で独自化することもあり得る。
自治制度は同一でありながら、異なる政策決定又は政策執行をするには、あるいは、異なる政策決定又は政策執行をしないためには、何らかの自治体の政策過程が作用しているだろう。まずは、国による政策的な統制や拘束が作用し、異なる政策を採用する能力が自治体から奪われているのかもしれない。しかし、国による拘束がなくても、地域実情を反映していない状態への自治体の感度が鈍ければ、自治体は異なる政策決定又は政策執行をしないだろう。つまり、自治体が所与の政策から変換するには、それぞれの自治体ごとの独自の政策過程が作用する。自治体ごとの政策過程の特性を規定する政治構造によって、自治体の政策(決定・執行・出力)が独自の固有性を持つこともある。
自治体政治構造
地域実情に関わる様々な要因は、自治体の政治構造の中で展開される政策過程によって、政策として反映される。客観的な地域実情が、自動的に政策に反映するわけではない。ある政策枠組が設定されれば、その政策が加味するような地域実情は、政策出力に影響を与える。その政策が加味しない地域実情は、地域実情がいかに異なっていても、政策出力には反映しない。したがって、政策枠組がどのように設定されているかが重要である。その政策を、所与のままに変更しないか、地域実情を反映すべく政策変更をするかは、自治体ごとの政策過程のあり方次第である。そして、政策変更するには、政治構造が当該地域実情に対して、感度を持っている必要がある。政治構造が鈍感であれば、地域実情がいかに異なっていても、地域実情を反映するような政策には、決定又は執行の段階において、変更しない。自治体がそれぞれに異なる政治構造を持っていることが、政策出力に非常に影響を与える。
例えば、企業城下町では、自治体の政治構造は、当該「城主」である企業の意向を大きく配慮せざるを得ない。当該企業が、首長や議員選挙で企業内候補を人的に送り出す露骨な動きをするとは限らない。選挙応援や政治献金という間接的な作用によって、首長・議員の公約や政策判断に影響を与えてもよい。日常的に、陰に陽に、陳情要求や圧力をかけるロビーイングもできる。自治体にとっては、当該企業からの税収・寄附金は直接的な作用である(1)。それに加えて、地域経済に与える発注者・需要者又は生産者・供給者としての存在感の大きさによって、地域の経済アクターに影響を与え、それを通じて政治的作用を持つこともあろう。そもそも、企業城下町では企業と自治体の利害関心は一心同体のイメージになり、企業の意向を反映しているという意識すら、自治体の政策過程では消滅することもあろう(2)。こうした企業城下町では、企業に不利な政策過程は展開できないような政治構造が成立することがあるかもしれない。
もちろん、企業城下町は、企業の大きな影響力ゆえに、企業活動に伴う負の影響も他の自治体より大きく、企業に反発する地元住民などの動きを生み出す面もある。こうした反発の動きは、企業の影響の小さな自治体では生じ得ないのであって、反発の発生も企業城下町の政治構造になる。企業が公害をまき散らせば、公害反対運動・賠償請求が起きるし、企業が閉鎖・移転をすれば、そうした空洞化への引き留め運動が生じるかもしれない。