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2023.12.25 政策研究

第5回 「社会の変容」「意思決定の合理性」と議会

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結び

 本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で意識すべきものとして、「社会の変容」「意思決定の合理性」と議会や、これらに関する事項等について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。

  1. 社会は常に変容しています。いつリスクが顕在化するか分からない状況の社会(=リスク社会)を、人は避けることが求められます。
  2. 社会の変革においてはソフト・ランディングが求められます。ソフト・ランディングには、積極的背景と消極的背景があります。社会の変革は、変革の前後の連続性を保ちながら非連続的に展開し、非連続性を保ちながら連続的に展開します。そのため、社会の変革が完成に近づくためには時間を必要とします。
  3. 社会が変わるときには、往々にして社会運動や市民運動が、「はじめの一歩」や「大きな力」になります。これらの運動は、過度の実力行使によって明らかに違法性を持つものでない限り、正当性を持ち、バラバラの個人の間に連帯をつくり、人々の内に社会化の芽を植えつけ、積極的な社会参加の気風をつくるという点でも、それは民主主義にとってプラスの意味を持ちます。その意味で社会運動や市民運動は「民主主義の資本」といえます。
  4. 議会は、社会運動や市民運動の存在を知ったら、議会で関係者〈市民、行政、国や民間部門の関係者、専門家等)を含め議論することが大切です。そして、決議・意見書提出・条例の制定改廃をするなど、できることを実践するという政策が求められます。
  5. 社会現象には、常に「プラス面(ポジティブなもの)」と「マイナス面(ネガティブなもの)」が入り組んでいます。また、社会現象は「人の行為」によって影響を受けますが、人の行為の一つずつにも、社会現象と同じように「プラス面」と「マイナス面」の双方があります。そのため「社会現象」や「人の行為」には両義性があります。したがって、これらについて考えるときには、十分に考え慎重に行動することが求められます。
  6. 社会においては、「意思決定における社会的合理性」が求められます。社会的合理性の前提条件としては、はじめに手続条件と内容条件をクリアすることが求められます。その上で意思決定が、従来の非社会的意思決定から社会的意思決定へ変化することが必要です。そして、科学的合理性を確認することが重要です。科学的合理性は、科学者が発見したり結論付けることが多いものの、社会の人々に広く説明し、理解されていなければなりません。
  7. 今日の社会は、科学的合理性を確認することの困難性が増幅しています。この対応には、科学者だけでなく、市民や市民の信託を受けている政治分野のリーダーともいいうる政治家(議員や首長)及び補佐する職員にも、「社会的合理性の前提条件①~④」をクリアすることが求められます。社会的合理性の前提となる科学的合理性については専門家等の協力のもと議論し、確認することが重要になります。
  8. 「社会的合理性」を身につけるためには、関係者には、ポジティブ(積極的)な思考を持ち、意思決定において妥協するとしてもポジティブな妥協をすることが求められます。ネガティブ(消極的)な思考では、やがて負のスパイラルを生み出してしまいます。
  9. 社会的合理性については、時代や地域・国により判断が分かれる場合が考えられます。その背景には、対立の存在があります。そして、この対立は複雑に絡み合っていることもあり、その整序には多くの時間を要します。
  10. 条例(案)の作成に当たっては、条例の目的と手段について立法事実が求められます。議会には、条例の作成・審議過程において立法事実の確認が求められます。そこでは、市民や専門家等との十分な話し合いが有意義です。議会には、その仕組みづくりがあらかじめの政策として求められます。
  11. 市民の参加の方法には多様なものがありますが、複数の方法を組み合わせて実施することが有意義です。
  12. 議会には、議会自身を自ら制御するとともに、行政を制御することが求められます。そのためには、行政を定期的に監視し制御することが可能となる、議会による条例の内容(条項)の決定と運用が求められます。
  13. 議会には行政を制御するだけではなく、行政の力を十分に引き出すことも求められています。そのため議会には、行政との「不一致の縮小」や「一致の増大」を念頭に置いた話し合いが重要となります。
  14. 「ボンド型レトリック」と「ブリッジ型レトリック」は、必ずしも対立するものではありません。レトリックにより、言葉は洗練され、説得力を高めます。なお、レトリックは使いすぎると効果が逓減してしまうので注意が必要です。


■参考⽂献
◇秋吉貴雄(2017)『入門 公共政策学─社会問題を解決する「新しい知」』中央公論新社
◇NHKホームページ(2023)「埼玉県議会『子ども放置禁止』条例の波紋 留守番は虐待? 反対意見相次ぐ 議論の経緯は」(https://www.nhk.or.jp/shutoken/saitama/article/016/36/〔2023年12月10日確認〕)
◇國分功一郎(2013)『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』幻冬舎
◇國分功一郎(2015)『近代政治哲学─自然・主権・行政』筑摩書房
◇篠原一(2004)『市民の政治学─討議デモクラシーとは何か』岩波書店
◇篠原一(2012)「若干の理論的考察」篠原一編『討議デモクラシーの挑戦』岩波書店、233〜256頁
◇土山希美枝(2018)「市民」石橋章市朗=佐野亘=土山希美枝=南島和久『公共政策学』ミネルヴァ書房
◇松下圭⼀(1991)『政策型思考と政治』東京⼤学出版会

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