2023.12.25 政策研究
第5回 「社会の変容」「意思決定の合理性」と議会
元・大和大学政治経済学部教授 田中富雄
本稿では、「社会の変容」「意思決定の合理性」と議会や、これらに関する事項等について再考します。そして、その上で政策過程において、これらの言葉を発するときの「自治体議員の発言に期待される含意と政策」について考えたいと思います。
「社会の変容」と「人の心」
社会は常に変容しています。そこには、平和到来のように人に幸せを与えるものと、紛争勃発のように不幸せをもたらすものがあります。時には、試験のように合格した人には幸せを与えるものの、不合格の人には不幸せをもたらすものがあります。終身雇用制度のように人に幸せ(安定)をもたらすものの、それに固執することで後の時代の人にチャレンジしづらい不幸せをもたらすこともあります。このように社会の変容には様々なものがあります。
また、いつリスクが顕在化するか分からない状況の社会(=リスク社会)では、人は心からの安寧を得ることができません。例えば、原子力発電所の大事故発生や地球温暖化のようなリスクが顕在化したときには、急激な対応を求められるとともに、事態は不可逆的な帰結に陥る可能性があるからです。人には、このようなリスク社会を避けることが求められています。
ソフト・ランディングと社会の重畳性──連続性と非連続性を保ちながら展開する社会変革
社会の変革においてはソフト・ランディングが求められます。ハード・ランディングでは、変革の前後において極端な差が生じるため、大きな犠牲を生起するおそれがあるからです。このことは、ソフト・ランディングの消極的背景と考えることができます。では、ソフト・ランディングの積極的背景には、どのようなことが考えられるでしょうか。一つは、望ましい(=適正な)変革の背景として、社会には多元性・多層性などの重畳性があること、もう一つは、変革には〈できたこと〉と〈できなかったこと〉の両面があるという「変革の限定性」があることです。社会の変革においては、これらのソフト・ランディングの消極的背景と積極的背景があることを認識しておかなければなりません。
また、このようなことを踏まえれば、社会の変革は、変革の前後の連続性を保ちながら非連続的に展開し、非連続性を保ちながら連続的に展開するのかもしれません。そのため、社会の変革が完成に近づくためには時間を必要とします。