2023.11.27 政策研究
第44回 固有性(その1):らしさ
「○○らしさ」の不在
そもそも自治体は、全国で似たような同類の存在であり、固有性がないという見方もある。自治体は、全国チェーンのコンビニエンスストアのようなもので、国が法令などで画一的・標準的に割り当てた事務処理をする存在であり、そこに固有性がない、あるいは、あってはならない存在ということになる。人々が移動することを考えれば、むしろ、全国各地で自治体は同じである方が便利かもしれない。例えば、住民基本台帳や戸籍などは、全国で共通でなければならない。
もっとも、婚姻届や住民票の写しの紙の様式やデザインについて、全国共通でなければならない必要もないとすれば、「○○らしさ」があるかもしれない。あるいは、対住民・対社会の事務事業のアウトプットについては「○○らしさ」はないとしても、バックヤードでの内部処理プロセスは、それぞれの自治体の固有のやり方があるかもしれない。固有性とは固有の特性に注目し、没個性とは没個性の共通項目に、見る者が注目しただけかもしれない。
実際、総合計画は、しばしば没個性なものであり、自治体の固有名詞と、自治体の統計数字を入れ替えれば、全国どこでも通用する面がある。例えば、港区基本計画では、「めざすまちの姿」として、「区民一人ひとりが大切にされ、多様性を認め合い、港区への愛着と誇りを持って活発なコミュニティが醸成されているまち」、「誰もが住みやすく、夢に向かって挑戦し、いきいきと輝きながら躍動するまち」、「あらゆる危機に強く、誰もが安全に安心して暮らすことができ、環境負荷の少ない持続可能なまち」、「進歩する先端技術が区民サービスに活用され、便利で快適な区民生活が実現している最先端のまち」と規定されている。また、分野別計画は、「かがやくまち(街づくり・環境)」、「にぎわうまち(コミュニティ・産業)」、「はぐくむまち(福祉・保健・教育)」、「実現をめざして」というものである。いずれも、ほとんど全ての自治体でも採用可能な汎用的な記述であり、没個性的なまちの姿であり、画一的な事務事業集である。
(1) 「パリジャン」、「パリジェンヌ」や「ニューヨーカー」など、日本に限らない。なお、「浜っこ」は横浜出身者を指すことが多いが、それ以外の「○浜」や「浜○」や海岸部の地域・自治体の出身者を指すこともあるので、完全な固有性は欠けている。
(2) 港区ウェブサイト(https://www.city.minato.tokyo.jp/kikaku/kuse/shisaku/kihonkoso/index.html)。
(3) 「港区南青山の『児童相談所』が4月1日開設…地元住民の反対どうなった? 担当者語る“目指す役割”」FNNプライムオンライン、2021年3月26日18時30分配信。もっとも、自治体としての港区は児童相談所の設置を実行したので、その意味では「港区らしさ」とは、近隣住民の反対を押し切ってでも児童相談所を設置する、という意味かもしれない。
(4) RESASによれば、2018年の1人当たり所得は、雇用者所得213万円、その他所得715万円である(https://resas.go.jp/regioncycle/#/map/13/13103/2/2018/)。とするならば、1人当たり所得1,000万円以上ではないことに、尺度を変えなければならない。ちなみに、千代田区はそれぞれ250万円、2,509万円であり、青森県六ヶ所村はそれぞれ551万円、565万円である。「港区らしさ」とは、外見ほどには1人当たり所得はない、ということのようである。
(5) 小林良樹・十代田朗・津々見崇「全国京都会議の加盟自治体による『小京都』を用いた地域ブランディングの変遷に関する研究」都市計画論文集Vol. 52、No. 3(2017年)。