2023.11.27 政策研究
第44回 固有性(その1):らしさ
「○○らしさ」の特定
理屈上は、複数の一般概念を重ね合わせることで、最終的には特定唯一の固有性に帰着することは可能である。2団体であれば一つの一般概念で固有性に至るが、4団体であれば二つの一般概念を掛け合わせれば、2×2の分類が可能なので、固有団体を特定することが可能なことがある。
このためには、きれいに仕分ける一般概念を見いだす必要がある。二つの概念を使っても、うまく四つに分けられなければ、固有団体を特定できないことはある。
この場合には、AとBという特性がともに備わっているというだけでは団体XとYの固有性は明らかにならない。団体Zは、特性Aあり・特性Bなし、で特定できるし、団体Wは、特性Aなし・特性Bなしで特定できる。
Aという特性について3区分、Bという特性について3区分できるならば、論理的には9団体の固有性を言語化することもできる。仮にデジタル的に二項区分のみとするならば、1,700の自治体の固有性を言語化するには、最低でも11の特性尺度が必要である。2の11乗が、2,048だからである。もっとも、尺度は相関しがちである。したがって、きれいに重なりが少ない区分ができるのは容易ではないから、何個の特性尺度が必要かは不明である。ともあれ、「○○らしさ」という固有性を一般的な言語によって定義することは、理屈上は不可能ではない。
「○○らしさ」による不可視化
「○○らしさ」について、漠然と表出するにせよ、具体的な内容を定義するにせよ、それによって不可視化されるものがある。自治体規模で「○○らしさ」を打ち出すことは、○○自治体の中の部分に存在する様々な多様性を不可視化するものである。
例えば、港区基本計画では、地区別の計画が記載されており、地区特性が存在することが想定されている。港区基本計画は、区政のあらゆる分野で計画的に行財政運営を推進する際の指針となる最上位計画で、基本構想の3分野6基本政策に沿った、総合的な計画である「分野別計画」と、総合支所ごとに策定した「地区版計画書」で構成されている。「地区版計画書」は、地域の課題を地域で解決し、地域の魅力をより高めるため、各総合支所が区民参画組織からの提言を踏まえて、複数年間(2021年度からの6か年の前期3か年に該当する2021年度から2023年度まで)の計画を立案した、独自に取り組む事業を中心とする計画書をいう。
その一つの、「港区基本計画芝地区版計画書」によれば、港区には、「芝」、「麻布」、「赤坂」、「高輪」、「芝浦港南」という五つの特色ある魅力的な地区が存在しているという。これら五つの地区の魅力と特性を生かすとともに、地域の課題を地域で解決し、区民がより身近な場所で様々な行政サービスを受けられることを目的として、2006年4月に「区役所・支所改革」を実施し、旧来の「麻布」、「赤坂」、「高輪」、「芝浦港南」の4支所は、「芝」を加えた五つの総合支所となった。こうして、総合計画も地区別計画を含むようになった。こうした中で、港区の特性である「港区らしさ」のみを打ち出すことは、港区が進めている各地区の特性を阻害することになる。地区の固有性を打ち出したいならば、自治体全体の固有性を打ち出すことを自制しなければならない。