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2023.10.25 政策研究

第43回 協調性(その6):遠隔協調

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一般型遠隔協調

 一般型協調とは、遠隔自治体間での相互利益に基づくものではなく、一方的・片面的な支援にも見える協調である。あるいは、遠隔協調の関係に入る個別自治体同士の利害関係を超えた、より広い国民的あるいは全自治体的・全住民的な利害に基づく一般的な協調である。もちろん、こうした一般的な利益は、長期的には「お互いさま」の関係のことがある。遠隔協調するというシステム自体が、将来的には支援してもらえるという安心につながり、全ての自治体にとって、有意義な保障になるという遠隔協調である。
 最も典型的なのが、災害時の自治体間の遠隔協調(自治体間連携)である。東日本大震災が典型であるが、広域災害であっても被災は日本全体に及ぶとは限らない(3)。広域災害の場合には、被災自治体に対する支援を、近隣・近接・近傍の自治体が行うことには限界がある。広域災害に関しては、近隣などの自治体も被災しているからである。同様に、被災地の都道府県も被災自治体であるため、被災市町村への救援(垂直補完・垂直的協調)が充分にはできないことも多い。そのため、全国的に遠隔地にある非災・未災の自治体が協調することが必要であった。
 もっとも、遠隔協調をどのように体系化するかは、難問である。自生的に相互協調が結ばれることを期待しても、個々の自治体にとっては探索・交渉コストが高すぎて、なかなか進まない。いわゆるマッチングの合理化・自動化でも進まない限りは、量的に乏しく散発的なものにとどまる。さらにいえば、遠隔協調を受けられる自治体と、遠隔協調を受けられない自治体とに、大きな差ができる。例えば、災害援助協定などを積み重ねていけば、こうした遠隔協調はできるにせよ、うまい具合に多くの又は全ての自治体が網羅されるわけではない。そこには、空隙と重複が生じる。
 このような遠隔協調の濃淡を平準化しようとすれば、全国的な、又は、広域的な調整が必要になる。それを、国が行うのか、自治体の全国組織(全国知事会・全国市長会・全国町村会)が行うのか、あるいは、都道府県で行うのか、都道府県単位の市町村の組織(○○県市長会など)などはいろいろあり得よう。ともあれ、このように遠隔協調の体系化のためには、全国的・広域的な調整が必要であり、しばしば垂直的協調を必要とすることになる。
 一般型協調では、遠隔協調が成立したとしても、協調関係に入った当面のAとBの間で、特段の共通・取引関係はない。Aの職員や消防隊がBに災害派遣されることは、AによるBへの支援である。もちろん、世知辛い世の中であるから、Aとしても正当化の理由付けが必要になったりする。例えば、災害派遣経験により、今後Aで起きるかもしれない災害復旧復興対策のための能力形成・ノウハウ取得を行う、などである。あるいは、そもそも、災害時に協力しないこと自体が、自治体Aの自治体業界内及び国民内での評判をおとしめる以上、「世間」並みには協力に行かざるを得ない。さらにいえば、「情けは人のためならず」であって、こうした支援をすることは、いずれ何らかの一般的な形で還元される、という正当化もあろう。
 発災直後では、被災地を助けようという「災害ユートピア」的な心情が横溢(おういつ)するので、遠隔協調もしやすい。しかし、次第にインパクトが薄れて被災が風化し、「支援疲れ」になっていき、揚げ句には、「いつまで被災地は頼っているのか」という逆恨みになったりする。こうなれば、遠隔協調は逓減又は消滅せざるを得ない。


(1) 古代中国の戦国時代における外交政策の一つといわれる。遠方の国と連合し、近郊の国を攻め取ることである。秦の范雎の策である。戦国7雄のうち、強大な西方の秦に対し、残る6国(韓、魏、趙、燕、楚、斉)が連合するのが合従策である。これに対して、秦が東方の国と個別に連合するのが連衡策である。遠交近攻策により、秦は遠方の斉や楚と同盟して分断を図った上で、隣国の韓・魏・趙を攻略して領土を拡大していった。遠方に同盟国をつくることで、攻め入る近隣国を二正面作戦の状態に追い込むのである(http://dictionary.channelj.co.jp/2018/18083102/)。もっとも、最終的には遠方の同盟国をも征服して天下統一を目指したのであるから、遠交近攻における「遠交」は長続きしない。
(2) 例えば、大都市圏自治体の一般廃棄物処分場の建設を、域外の地方圏に求めることはある。それでも、域外の地元自治体・自治会の了解を得ることが多いが、明示的な自治体同士の遠隔協調の形をとることは少ない。単に、域外施設がある、というだけになる。
(3) コロナ禍のように、全国に及ぶ厄災もある。とはいえ、深刻度には地域差があり得るから、自治体間の遠隔協調はあり得なくはない。例えば、陽性者の収容施設が域内になければ、通常は近隣自治体への広域搬送となるが、それでも収まらなければ、遠隔地への搬送もあり得よう。もっとも、コロナ禍では、広く往来制限と県境検問をしていて、他県コロナ排除をしていたので、遠隔協調は困難であった。
 

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