2023.10.25 政策研究
第3回 地方分権の「メリットと必要性」、政策実現の「困難性と方策」
補完性の原理、基礎自治体優先の原則
第27次地方制度調査会の「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」(2003年11月13日)は、「今後の我が国における行政は、国と地方の役割分担に係る『補完性の原理』の考え方に基づき、『基礎自治体優先の原則』をこれまで以上に実現していくことが必要である」という考えを示しています。
「補完性の原理」は、「基礎自治体(市区町村)⇒広域自治体(都道府県)⇒国(中央政府)の順で、市民(国民)を支援する」ということです。すなわち、「政府が行う事業は、まず市民に身近な基礎自治体が行い、それができない場合には広域自治体が補い、広域自治体でできないことは国が補う」というように、政府関係を規定するものです。このことは、基礎自治体が広域自治体や国よりも、地元情報収集力や地元情報発信力が高いとともに、近接性、総合性、迅速性、地域性といった特長を持っている(田中 2023:49-50)ことから望ましい姿、あるべき姿であるといえます。
なお、「補完性の原理」に関する規定は日本国憲法にはありませんが、大森・大杉がいうように、地方自治法の1条、1条の2、2条は、「補完性の原理」を体現する規定になっています(大森=大杉 2021:70)(表4参照)。
表4 「補完性の原理」に関する地方自治法の内容(要旨)
結び
本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で意識すべきものとして、「地方分権のメリットと必要性」や「政策実現の困難性と方策」と、これらに関する事項等について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。
- 現在の日本においては分権のメリットが大きいと見ることができます。ただし、分権のメリットを活かすためには、政策資源(権限・人員・財源等)の国から自治体への移転と併せて、分権型社会の実現に対する自治体関係者等(市民、自治体政府〈議員・首長・職員〉、国〈政治家・職員〉)の価値観・信念・行動様式の確立が必要であることを忘れてはならないでしょう。
- 「分権」「集権」が機能的な状況であるためには、「分権」「集権」の割合が適正であることが求められます。
- 日本の中央地方関係においては、「分権・融合」型への確かな歩みが当面は求められます。
- 議員には、地域に残された問題(未着手の政策)を取り上げることが求められます。そこでは、まず残された問題(未着手の政策)のリスト作成が政策課題として挙がることになります。
- 自治体の政治家・職員や国の関係者等が、市民の都合を顧みず、自らの都合だけがよくなるように規制を変更・解除すること(レントシーキング)があってはなりません。
- 多方位から多様な人が見ることで「問い」と「気づき」が豊かになり、「環境変容」が予測しやすくなります。ここからは、自治体政府(議会・行政)には、「問い」と「気づき」を豊かにするチェックリストの作成が、政策課題として抽出されたといえるでしょう。
- 議員が一緒に行動することで「問題の流れ」や「政策の流れ」についての理解を深めると同時に、議員がお互いを知り人間関係を豊かにすることで、「政治の流れ」をつくりうることがあります。
- 豊かな人間関係は、理にかなった「話し合い」を形成し、議員個々の力学によるのではなく、公正な仕方で政策を決定することにつながります。
- 自治体政府(議会・行政)が「無律性」に陥ることを避けるためには、自治体政府を構成する議会と行政がともに「自律ある自治体政府としての当事者意識」を持つとともに、市民が自治体政府(議会・行政)を制御する「自律ある市民としての当事者意識」を改めて持つことが大切です。
- 「補完性の原理」は、「基礎自治体(市区町村)⇒広域自治体(都道府県)⇒国(中央政府)の順で、市民(国民)を支援する」ということです。すなわち、「政府が行う事業は、まず市民に身近な基礎自治体が行い、それができない場合には広域自治体が補い、広域自治体でできないことは国が補う」というように、政府関係を規定するものです。