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2023.10.25 政策研究

第3回 地方分権の「メリットと必要性」、政策実現の「困難性と方策」

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中央地方関係において求められる「分権・融合」型への確かな歩み

 繰り返しますが、ここでいう「分権」とは自治体が決め、「集権」とは国が決めることです。ところで、国の業務を国が自ら行う場合を「分離」、国の業務を自治体が行う場合を「融合」といいます。天川モデルで知られる天川晃は、「集権・分権」軸と「融合・分離」軸という二つの軸を用いて、日本の中央地方関係を明らかにしました。天川は、1943年の府県制、市制町村制(大日本帝国憲法下の地方自治制度を定めた法律)の改正は、日本の中央地方関係を〈集権・融合〉型に再編しようとするものであったことを指摘しています。その上で戦後の改革は、戦時下の〈集権〉的再編を逆転させ、それ以前から進行していた〈分権〉を強化し、日本の中央地方関係を〈分権・融合〉型に再編したと述べています(天川 1984:208)。この〈分権・融合〉型に再編した流れは、やがて2000年の地方分権改革を経て、戦後78年たった今日でも、続いているといえるでしょう(図1参照)。
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出典:天川モデルを参考に筆者作成

図1 天川モデルから見た日本の中央地方関係の変遷

 また、次段で述べるように、現状では「分権・分離」型に課題があるとすれば、日本の中央地方関係は当面「分権・融合」型を確かなものとすることが先決として求められます。なぜならば、分権には表1に示すようにメリットが大きいからです。まずは、「分権・融合」型を確かなものとし、「分権・融合」型と「分権・分離」型の選択は、残された課題としていいのかもしれません。
 「分権」の「集権」に対する優位性(=メリットの大きさ)については、表1で示しました。なぜ「融合」が「分離」に対して優位性を持つことになるのかについては、次のように考えることができます。日本の中央地方関係においては、概通して見てみても戦前の「集権・融合」型から「分権・融合」型へと変容していますが、「融合」という点では変わっていません。変わらない理由の一つは、仮に「融合」が「分離」を目指した場合には、自治体と国の間での権限、定員、予算、土地、建物等の政策資源の大幅な変動が必要とされ、それらが定着するためには長期の時間が求められるという困難さがあることです。「融合」を「分離」に変容しようとすれば、そのために分権の取組みが遅れたことが見込まれます。現時点においても同様のことがいえるでしょう。

分権で自治体の独自基準を明確化、残された取組課題(未着手の政策)を議会としてチェック

 身近な政府として、自治体は政策の独自基準を明確化できることがあります。例えば、道路の横断歩道に接続する部分については、従来、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に基づく「移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する基準を定める省令」により、全国一律の基準が適用されてきました。
 しかし、2011年8月の第2次一括法(地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)が成立し、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が改正されました。このことにより、「横断歩道等に接続する歩道等に関する基準」が条例に委任され、省令が定める基準は「参酌すべき基準」となりました。この結果、自治体は地域の実情に応じた独自の基準を定めることが可能となりました。
 これを機会に、川崎市では2012年12月、「川崎市移動等円滑化のために必要な道路の構造の基準に関する条例」を制定しました。この条例では、車椅子利用者等と白杖(盲人安全杖)利用者の利便性を調整し、必要に応じて段差を2センチメートル以下にする構造も可能とする規定(9条)や、道路に設けられる排水溝の蓋についても、目の粗い排水溝の蓋は白杖やハイヒールなどが隙間に落ち込みやすく危険であることを改善するため、杖等が落ち込まない構造とする市独自の基準を規定(5条)しました(2013年4月施行)(内閣府ホームページ「地方分権改革成果事例集(平成27年版)」(https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/doc/jirei30_h27_06.pdf))。
 しかし、このような法改正を国が行っていても、自治体側において制度を活用する意思と能力がなければ、その取組みは役に立たないことになります。前段において示した川崎市のように、地域の実情に応じた独自の基準を定め実践することが大切です。
 議員には、このような地域に残された問題(未着手の政策)を取り上げることが求められます。そして議会には、多様な市民や行政、さらには専門家等と話し合い、合意を得たものから決定(条例改正・予算付け)することが求められます。このような取組みをしている議会・議員であれば、たとえ関係する市民が決定のときに議場にいなくとも(来られなくとも)、市民の姿が目に浮かび、市民の声が心に響くことになります。そのとき、議員は「〈望ましい政策・制度の決定〉は〈市民の幸福追求〉につながる」ということを改めて思い起こすでしょう。

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