2023.09.25 政策研究
第42回 協調性(その5):圏域設定
広域行政圏
その後も、時々の国の政策動向などを反映し、広域行政圏が形を変えながら続けられた。1979年4月に、自治省は「新広域市町村圏計画策定要綱」を出した。また、1989年6月には、自治省は「平成元年度における広域市町村圏施策の推進について」を出した。1991年3月には、「今後の広域行政圏の振興整備について」を出した。この1991年の通知により、広域市町村圏及び大都市周辺地域広域行政圏の両者が「広域行政圏」と総称されることとなった。
また、自治省は、折からの竹下内閣の「ふるさと創生1億円」施策を受けて、上記の1989年6月通知において「平成元年度ふるさと市町村圏推進要綱」も示した。「ふるさと市町村圏」とは、原則として都道府県ごとに一つの広域市町村圏を「ふるさと市町村圏」として選定し、10市町村程度からなるイメージの各ふるさと市町村圏において、おおむね10億円のふるさと市町村圏基金を造成し、その基金運用益を活用して様々な地域振興のためのソフト事業を行うものである。その後、自治省は、1999年4月に「ふるさと市町村圏推進要綱」を出し、大都市周辺地域広域行政圏についても対象とすることとした。
2000年4月には、自治省は「広域行政圏計画策定要綱」を出した。従来の広域行政圏に係る通知をすべて廃止した。同要綱では、分権改革の時代を反映し、広域行政圏の設定について自治省との協議は不要となり、広域行政機構が広域行政圏計画を策定する際にも、都道府県との協議は不要となった(3)。
国策合併と圏域設定
広域行政圏計画策定要綱が出されたのは、分権改革の頂点であるとともに、国策による平成の大合併の始まる時期でもあった。実際、同要綱では、地域間の交流を効果的に進める観点から、自主的な市町村合併を積極的に推進するともうたわれている。広域行政圏単位で市町村合併がなされるならば、そもそも、広域行政圏計画は、市町村総合計画や新市建設計画に吸収されるからである。その意味で、市町村合併を国策で進める限り、広域行政に向けた圏域設定は不要になる。
もっとも、市町村合併を推進する国策としては、重複も空隙もあってはならないので、上からの圏域設定への指向が残る。国策合併とはいえ、最後は各市町村の同意が必要である以上、下からの合併の組合せは、パッチワーク的になりうる。重複して複数の合併の枠組みに加わることはできないにせよ、合併枠組みの事前協議では、合併相手を二股三股に重複することがあっても不思議ではない。飛び地合併もある。また、最終的にはどの自治体とも合併しないという意味で、合併の空隙になることを選ぶ自立市町村(国策的には「未合併市町村」と呼ばれる)もある。あるいは、どこからも合併の声がかからないという意味で、「見捨てられた」市町村もあろう。その意味で、下からの市町村合併では、重複と空隙と飛び地が生じ得る。国・都道府県は、整然とした市町村の区域分けを求めて、合併の枠組みを圏域として示すことが多い。いわゆる「合併パターン」である。
例えば、青森県が2000年に示したの合併パターンは図1のとおりである(4)。合併後の新市町のイメージは、①中核都市創造型、②地域中心都市創造型、③新市創造型、④地域活力創造型という(表)。要するに、人口規模30万人、10万人、4万人、1万人ということである。青森県が示す合併パターンどおりに市町村合併が進めば、青森県は11市町になったわけである。なお、2023年現在の青森県の実情は、図2のとおりである(5)。10市22町8村である。
出典:「青森県市町村合併推進要綱」14頁
図1
出典:「青森県市町村合併推進要綱」12頁
表
出典:青森県「市町村事務要覧」(市町村の紋章・人口・世帯数・面積・就業人口・事務所の位置)
図2
ちなみに、青森県の地域区分は、歴史的には、南部・津軽・下北の3地域であるが、通常はもう少し細かい。例えば、地域県民局は6地域である(6)。①東青地域(青森市、平内町、今別町、蓬田村、外ヶ浜町)、②中南地域(弘前市、黒石市、平川市、西目屋村、藤崎町、大鰐町、田舎館村)、③三八地域(八戸市、三戸町、五戸町、田子町、南部町、階上町、新郷村)、④西北地域(五所川原市、つがる市、鰺ヶ沢町、深浦町、板柳町、鶴田町、中泊町)、⑤上北地域(十和田市、三沢市、野辺地町、七戸町、六戸町、横浜町、東北町、六ケ所村、おいらせ町)、⑥下北地域(むつ市、大間町、東通村、風間浦村、佐井村)の6地域である(7)。
合併パターンの作成では、県土の均衡ある発展と地域の自律的発展力の充実を図るため、20~30年先の中長期的な視点に立って、次の項目を総合的に勘案したという。具体的には、①地域の結びつきを示す生活圏の指標(通勤圏、通学圏、商圏、通院圏)及び行政圏の指標(郡の区域、高等学校学区、一部事務組合(消防、ごみ処理)の区域、広域市町村圏、保健所所管区域、警察署管轄区域)の統計的分析の結果、②県民、各種団体(代表者)、市町村長、市町村議会議員に対するアンケート調査結果、③市町村長インタビュー結果、④市町村合併に向けた地域の自主的な動きなどである。とはいえ、この合併パターンは地域における議論の「たたき台」として提供したという。市町村合併の組合せは、地域の合併に対する気運や熟度に応じて変わるため、この組合せ以外の組合せもあり得るとしていた。