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2023.09.25 政策研究

第42回 協調性(その5):圏域設定

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之

圏域設定

 前回(第41回)に触れたように、市町村の区域を越えて連続的に展開する広域行政には、上からの力学と下からの力学がある。下から、つまり個別市町村の意向を重視し、市町村間の合意の積み上げを行えば、広域行政はパッチワーク状に形成される。したがって、広域行政には、重複もあれば空隙もあるし、ときには飛び地にもなる。しかし、上から、つまり都道府県や、さらには国の意向を反映すれば、広域行政には重複も空隙も飛び地もない、整然とした区画割を期待することが多い。実際、前回触れた三重県の例でも、県内を区分する方法には、何通りかあったものの、いずれにおいても重複と空隙と飛び地をつくらない。
 都道府県や国は、このように市町村の区域を越えて整然とした区分をしたがる傾向がある。そもそも、国から見て、国土を整然と分割した区域は、伝統的には「地方」と呼ばれてきたことは、第10回以下で、すでに触れたとおりである。同様に、都道府県もこのように都道府県域を整然と分割することがある。それは、「地方」と呼ばれることもあるし、「地域」と呼ばれることもある。
 しかし、上からの整然とした区域区分が、市町村をはじめとする現場で受容されるとは限らない。その過程では、国・都道府県・市町村間で様々なせめぎ合いがある。そこで、今回は、主に国に焦点を当て、国の方針に基づき、しばしば、都道府県を介して、上から提示された広域区分を「圏域」と名付け、国及び都道府県による圏域設定の試みについて検討してみよう(1)

広域市町村圏

 自治省は、1969年5月に試行的に単年度の「広域市町村圏振興整備措置要綱」を発表して、広域市町村圏政策を開始した。その後、翌1970年4月に自治省は「広域市町村圏振興整備措置要綱」を発出した。住民の日常生活圏を単位として、「広域市町村圏」という圏域を設定する。当該圏域に属する市町村が広域行政機構を設置し、当該広域行政機構が広域市町村圏計画を策定する。当該計画に基づき、圏域の総合的・計画的な振興整備を図る。
 広域市町村圏は、おおむね人口10万人以上の規模を有することを標準とした日常社会生活圏である。ただし、大都市圏は除く。圏域内に日常生活上の通常の需要を充足する中心市街地が存在し、中心市街地と圏域内の市街地・集落を連絡する交通通信施設が整備されているイメージである。広域市町村圏の設定は、関係市町村及び自治省との協議を経て、都道府県が行う。また、原則として、すべての市町村がいずれか一の広域市町村圏に属するよう配慮するとされた。上からの重複・空隙なき圏域設定が想定されていたことがうかがえる。その結果、1972年には、大都市圏、東京島しょ部、1市1圏域のいわき市を除き、全ての市町村が広域市町村圏に属するようになった(2)
 広域行政機構は、一部事務組合又は協議会である。広域行政機構は、都道府県との協議を経て、広域市町村圏計画を策定するとともに、当該計画に基づく事業実施の連絡調整に関する事務を処理する。広域市町村圏計画は、基本構想・基本計画・実施計画の三層制である。

大都市周辺地域広域行政圏

 広域市町村圏は、非大都市圏、つまり地方圏での圏域の設定である。大都市圏には巨大中心市街地である大都市が存在し、市街地が郊外部まで蚕蝕(さんしょく)的に連続・拡散している。郊外部にも人口は10万人規模を超える地域はありうるが、そこにはこれといって明確な中心市街地は存在しない。人口10万人規模で、中心市と周辺町村が存在するという広域市町村圏の想定が当てはまらないのである。
 1977年8月に自治省は「大都市周辺地域振興整備措置要綱」を出した。「大都市周辺地域広域行政圏」は、関係市町村及び自治省と協議して、都道府県が設定する。具体的には、おおむね人口40万人程度の規模で、地理的・歴史的・行政的に一体的な区域のイメージである。いずれか一の広域市町村圏に属する市町村は除く。広域行政機構は協議会とされた。広域行政機構は、大都市周辺地域振興整備計画を策定する。これも、基本構想・基本計画・実施計画の三層制である。

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