2023.08.25 まちづくり・地域づくり
第6回(最終回) 「活動人口」を創出するための10のキーワード ~人口減少時代における新しいまちづくりの形
5 持続発展可能なまちづくりを進める10のキーワード
本連載を終えるに当たり、活動人口を創出するための視点を例示したい。これらの視点は10のキーワードでまとめた。
今回、提示するキーワードは、自治体の関係者が意識する内容である。ここでいう関係者とは、自治体職員、地方議員、そして首長等である。
最初に指摘したいのは、まちづくりに関わる者の「①自分ごと化」を意識させる仕組みや仕掛けを用意する必要があることである。自分ごと化に関しては、本連載第2・3回で言及しているので、そちらを参照してほしい。
次に、自分ごと化を促進するために、まちづくりに関わる者が「②参画」するための機会を広く持つべきである(参画してもらうチャンネルを多方面に用意する)。例えば、以前からパブリック・インボルブメント(Public Involvement)という手法がある。このPIを活用することも一案である。
PIとは、自治体が実施する政策(施策や事業を含む)の計画段階から実施段階まで、住民等の意向を反映しながら一緒に政策づくりを進めていくための手法である。PIを経験した当事者は理解していると思うが、実はPIは「極めて面倒」である(誤解を覚悟であえて「面倒」という2文字を使っている)。
まちづくりに関わる者が増えれば増えるほど、合意形成が広範囲になる。広範囲になった結果、調整に時間がかかる傾向がある。この調整が(経験した者は理解していると思うが)とても面倒である。しかし、まちづくりの過程で調整は必須である。丁寧に調整を実施した結果、強いまちづくりとなる(なお、期限を決めて調整をしないと延々と続く。そのため最初に期限決定の合意形成をしておく必要はあるだろう)。
そして「③プロセス(過程)重視」も指摘しておきたい。ドイツの詩人であるゲーテは「人が旅をするのは到着するためではなく、旅をするためである」という言葉を残している。同格言が意味していることは、「人生(旅をすること)は死ぬ日(到着すること)が目的ではなく、生きていく日々の中に価値がある(旅をするためである)」ということであると理解している。つまり一日一日のプロセス(過程)重視を述べている。これは、まちづくりにおいても当てはまる。
まちづくりの過程では、庁内調整が発生する。庁内調整が終わると、庁外の多様な関係者との合意形成を図る必要がある。極めて泥くさいものである。しかし、その一つひとつの合意を丁寧につないでいくと、結果として、地域が納得し、良いまちづくりとなる。そして活動人口が相次いで創出され、持続発展性のある彩り鮮やかなまちが実現していく。
続いて「④共有」が求められる。本連載でも言及しているが、例えば、自治体と住民の時間の「共有」、空間の「共有」、情報の「共有」などである。共有が一定数進むと「⑤共感」に進んでいく。そして共感の先には「⑥共創」が誕生する。
近年は「共創」という概念がはやっている。ある意味、「共創の競争が展開されている」ともいえる。自治体の共創を確認すると、多くのケースが共有もせず、共感もなく、一足飛びに共創に取り組んでいる実態がある。これは「名ばかり共創」であり、真の共創が実現されるとは思えない。
共有は、活動人口を創出する第一歩である。特に重要なのは「⑦目標の共有」である。言い方に語弊があるかもしれないが、まちづくりの関係者が目標を共有できれば、まちづくりは8割程度成功したともいえる。例えば「富士山の山頂を目指そう」という目標が共有できれば、登山手段や登山ルートは、各主体に任せればよい。ある者は山梨方面から登るかもしれないし、別の者は静岡方面から登るかもしれない。また、歩いて登る者もいれば、ヘリコプターで一気に山頂を目指す者もいるかもしれない。登山手段や登山ルートは異なるが、目標が共有化できていれば、必ず達成感をともに味わうことができる。
ところが、多くのまちづくりは、目指す山がバラバラというケースが多い。ある者は富士山を登り、別の者は高尾山を目指すという状況である。目標が共有化できていないため、まちづくりは失敗に終わる。
さらに、「④共有」に関係するが、「⑧オープン(公開性)」も重要である。読者は様々な事例から理解していると思われるが、今日の情報社会においては情報等を囲い込むことは困難である。そこで自治体のスタンスとしては、機密情報と個人情報以外は基本的にオープンにすることを徹底した方がよいだろう。
また、「⑧オープン(公開性)」には、「(まちづくりに)来るものは拒まず」という意味もある。これは本連載で言及した人的資源の呼び込みにつながっていく。
「⑨多様性」も指摘しておきたい。同一性ではイノベーションは登場しない。多様な価値観が重なり合うところにイノベーションが創出する。このイノベーションが自治体を次のステージに発展させていく原動力となる。本来、イノベーションとは「新機軸」とか「新結合」と訳されるが、本連載で明記した「価値共創」に近い概念である。
最後に、「⑩失敗の寛容」も挙げておきたい。人口減少時代のまちづくりは、先進モデルが少ない現状がある。そのためトライアルアンドエラーを繰り返しながら進めていかなくては成果が導出されない。ところが、自治体は失敗に非寛容である。「努力した結果、失敗したのならば、次に生かしていく」というぐらいのスタンスで取り組まなくては、まちづくりは成功の軌道に乗らないだろう。
以上、活動人口を創出する10のキーワードを示した。活動人口の存在は、人口減少時代のまちづくりを成功させるために有意義であると考えている。
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本連載は今回で終了である。本連載を読んでくださった読者の皆様に感謝を申し上げたい。最後に、本連載は執筆者の所属する組織の見解ではなく、執筆者個人の意見であり、本連載における間違いは、すべて執筆者に帰することを述べておきたい。