2023.08.25 まちづくり・地域づくり
第6回(最終回) 「活動人口」を創出するための10のキーワード ~人口減少時代における新しいまちづくりの形
4 市民の中に活動人口を育てるまちづくり
(1)コミュニティ施策としての市民文化の充実
前田の研究では、各地域の「音楽を活用したまちづくり」を紹介した。まちづくりを介して出会う多様なアクターとの新しい関係性の中で、文化芸術を媒介として価値共創が起こり、地域に好影響を与えていく状態を「共奏モデル」と名付け、主張した。
音楽は一つの例であり、市民文化を豊かにすることは地域住民の生きがいにつながるとともに、緩やかな趣味のネットワークが地縁・血縁や仕事関係とは異なる様々なバックグラウンドの人との出会いを創出する。しかしながら、地域活動への参画ハードルは、一般市民にとってかなり高いものである。少数の自治意識が高い市民を育成するよりも、一見遠回りに見えるかもしれないが、地域コミュニティの中に多彩な接点を創出する必要がある。
PTAや自治会といった既存の義務的なつながりではなく、「楽しそうな」、「自発的に関わりたくなる」コミュニティ活動を増やすことで、地域の多様な人たちと関わり、時間やプロジェクトを共有する中で少しずつ活動人口的なマインドを持つ市民を育てることにつながっていく。実際に、音楽やスポーツの活動に関わっている人たちの方が、そうでない人たちよりも地域への愛着や定住意向が強く、ボランティアなどの社会活動への関心が高いというデータも示されている。
例えば、文化・スポーツ施策を考える際に、有名なアーティストの公演を行う、スポーツ大会を開催し市民に楽しんでもらう、というだけでなく、そのイベントに市民の関わりをつくることをセットで構想することも大事である。市民が関わることでボランティアや運営のノウハウだけでなく、「祭り」をつくり上げた高揚感、熱量もイベントが終わっても余韻として地域に残る。
そして、何かあればやってみたいと思える活動人口マインドのエンジンになっていく。活動人口として実際に地域のために汗をかく人が生まれ、それを支えるネットワークをつくるためには、市民文化の豊かな、大きな裾野を地域に広げていくことも一つの手段として有効である。
(2)中間支援の充実
活動人口を地域に育てるに当たって、コミュニティ施策と同様に必要だと考えるのが、「中間支援」の充実である。思いのある人や多様な主体をつなぎ、複雑化する地域課題に対し適切にマッチングして活動してもらうために、ネットワーキングやコーディネートを行う中間支援機能がますます重要になってきている。
本連載において松木が指摘した「資源統合」に有効な施策である。例えば、そこで地域外の主体や、文化芸術セクターと地域課題に取り組む企業が出会うことにより、クリエイティブな新事業が創出できる可能性もある。
今日、「連携・協力」という行動が目的化しているという現状が少なからずある。そのような中では、中間支援組織が客観的な事業評価を行うことも求められていくと考える。しかしながら、中間支援組織の運営の一番のネックは資金面であり、自治体が支援を行う必要がある。
筆者(前田)は、活動人口を地域に育てる一つのアイデアとして市民文化を豊かに育てることを提案した。まちづくりの最初の一歩は、コミュニティとつながりを持つことである。市民文化はその一つの契機となる。
また、市民や企業と地域課題をつなぎやすくする中間支援も必要である。地域内に楽しさを軸としたつながりの好循環を生み出すことで、持続可能で住み続けたいまちづくりができると考える。