2023.06.26 政策研究
第39回 協調性(その2):垂直的協調
政策執行における協調性
国と自治体の共同事務は、協調していなければ機能しない。そして、国と自治体の役割分担は、国が政策決定的な大枠の基準・方針・枠組みを設定し、自治体が政策執行的に具体的に事務事業を運用していくことが多い。政策は国、執行は自治体、という役割分担である。
このような国・自治体の役割分担観が、国・自治体を通じて共有されていれば、政策・制度を決定すれば、自治体が執行しないということはあり得ない。法的義務であるかどうかという以上に、そのような役割分担が「自明」、「当然」として了解されている。例えば、新型コロナ対策として、国が特別定額給付金(非法定自治事務)を打ち出し、ワクチン接種(法定受託事務)を推進すれば、自治体はその政策執行を拒否することはない。前者は単なる任意事業であり、後者は法的に自治体に義務付けられた(民衆一般への接種義務ではない)ものであるとしても、両者ともに、自治体が政策執行するのは、非常に自然なこととして受け止められた。
もちろん、国の政策・制度のつくり方が、自治体の政策執行現場において、様々なトラブルを生じさせることがある。それゆえ、国と自治体の間で、対立・紛争が起きることもある。例えば、前者では、国が電子申請を推進しようとしたが、自治体現場でそれを行おうとすると様々な支障が出たため、自治体によっては電子申請を忌避した。当然、国に対する不満も生じた。後者では、必要なワクチンの配分がされないため、自治体は国に対する不満を表明したりした。
その意味で、自治体は国に対して、共同事務・共同行政であるがゆえに、唯々諾々(いいだくだく)と「ご無理ごもっとも」と甘受するとは限らない。ただし、こうした政策執行をめぐる紛争は、あくまで、国の政策・制度を自治体で実現しようという、大枠での協調性を前提にしたものである。したがって、可能であれば、国としても、自治体側からの不平・不満を解消できるように対処したいところである。
政策立案における協調性と紛争性
さらに、こうした政策執行の問題点から、自治体が国の政策・制度に踏み込んで、陳情・要望をすることもある。しかし、それを国が容認しない場合もある。そのときには、政策決定については、意見の不一致や対立が見られることになろう。しかし、それが、政策執行を自治体が拒否・罷業するような対立・紛争状態に至ることは、ほとんどない。自治体から国への陳情・要望は、あくまで国が制度設計や政策立案をし、自治体が政策執行するという分業における垂直的協調を前提にしているからである。そして、自治体から国への陳情・要望の結果として、国の政策・制度が修正されることもある。この場合には、顕在的にも、垂直的協調が回復される。
政策立案における棲(す)み分け
しかし、自治体の提言・提案が、国の政策・制度の判断とは相容(い)れないということもあろう。このときに、上記のような分業(国が制度設計や政策立案をし、自治体が政策執行するという分業における垂直的協調)を前提にせず、自治体が独自の政策・制度を創出する場合には、国と自治体の間の政策立案における協調性が失われることもある。もっとも、法的に国の政策・制度に反する紛争は、自治体としては起こしにくい。それゆえに、政策法務的に解釈し、法的に国の政策・制度に反しない、という「棲み分け」をする。その限りでは、自治体の独自の政策・制度の決定が、国と自治体との垂直的協調を阻害するわけではない。
例えば、国は同性婚を民法・家族制度としては拒否している。そのときに、自治体として「同性婚」に相当する制度として、パートナーシップ制度を別立てに設定する、という便法を行う。もちろん、そのような自治体は、国に同性婚の制度化を陳情・提言することもあろう。その意味で、政策論争では意見の不一致が生じているともいえる。しかし、それが大きな紛争にならないような隘路(あいろ)を、自治体は探ることが普通である。
このときに、国が強圧的に、自治体の独自政策・制度を抑圧するために介入する場合と、あるいは、穏健的に、国は自治体の独自政策・制度を黙認又は放置する場合とがある。後者では、政策決定での協調性は、政策の不一致にもかかわらず、何とか維持される。前者の場合には、かなり厄介な紛争・対立になる。例えば、国の都市計画・建築の制約をかいくぐって、要綱行政やまちづくり条例を制度化してきたが、国がそれを違法などとして、抑圧することが進められた。
(1) 学術用語としては、加藤一明が「共(協)同事務」という用語を使っている。これは、「国全体の利害にかかわると同時に、地方の利害にも関係ある事務」であり、ここでは団体委任事務と機関委任事務という概念の入る余地はないとされる。あるいは、「分任」とも「義務的事務」とも呼ばれている。加藤一明『日本の行財政構造』(東京大学出版会、1980年)245頁、254頁、270頁、272頁、279~280頁。