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2023.06.26 政策研究

第39回 協調性(その2):垂直的協調

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係争処理制度の限界

 係争処理制度が、国と自治体の間の対等・協力関係を目指すという、第1次分権改革の大きな目的のための手段であるならば、その方向性に沿って運用することになるだろう。つまり、第三者機関として勧告又は裁判所の判決によって、法的紛争に関して、終局的に対立を解消することは、必ずしも係争処理制度の目的ではない。
 なぜならば、対立するAとBとの両当事者に対して、仮に「公平」に第三者機関・裁判所が結論を下したとしても、Aを勝たせる、あるいはBを勝たせる形での紛争解決は、一致又は外見的協調を実現するかもしれないが、対等・協力関係をもたらすわけではない。Aが係争処理で勝つことは、第三者機関・裁判所がAに肩入れし、第三者機関・裁判所がBを統制することにすぎないからである。確かに、勧告・判決を出すのは第三者機関・裁判所であるから、AはBを直接には統制しない。したがって、A、B間では対等性は維持されるかもしれない。しかし、結果として、BはAの意思に服従することになる。
 しかも、実態的には、国が自治体に対して行った権力的関与に、第三者機関・裁判所が法的お墨付きを与えることもあるから、実際に自治体を統制するのは第三者機関・裁判所ではなく、片方当事者である国である。そもそも、自治体が国に対して権力的関与を行うことは想定されていないから、係争処理制度の土俵のつくり方が偏っている。つまり、国と自治体とが互いに対等に関与し、それに対して、関与された側が第三者機関・裁判所に判断を仰ぐのではない。あくまで関与するのは国、関与されて第三者機関・裁判所に救済を求めるのは自治体、というように、役割分担が片面的に決まっている。その意味では、国は自治体に優位するので、あるいは、都道府県は市区町村に優位するので、国・都道府県・市区町村は対等ではない。
 国が殴りかかってきたときに、「専守防衛」的に、自治体は第三者機関・裁判所に助けを求めることはできるようになった。ただし、第三者機関・裁判所は、国が殴りかかるのを、そのまま認容することもある。しかし、「敵基地攻撃」的・「先制防衛」的に、自治体が国に殴りかかることは、そもそも想定されていない。

係争処理制度の正しい運用

 係争処理制度が、対等・協力関係のために寄与するとすれば、それは、最終判決・判例を欲しがるという、「出入り」として勝ち(負け)に拘泥する法律屋的嗜好(しこう)に沿うものではあり得ない。むしろ、最終判決・判例に至らないままで、両当事者の意見の一致や合意形成を獲得する斡旋(あっせん)・調停の形でなければならない。その意味で、係争処理制度とは、紛争両当事者による協議の再開を求める勧告をするか、係争処理の中での「和解」を目指すこととなろう。
 もちろん、こうした「和解」自体が、どちらかの「勝ち」を意味し、最終判決の予測から逆算したものにすぎないこともある。つまり、例えば、このまま審理が進めば、最終的にはAが勝ちそうなときに、それを予測して、第三者機関・裁判所はBに「和解」に応じるように求めるならば、それは対等・協力を保証するものではないからである。そもそも、このような「和解案」であるならば、Bは応じない方が、対等性が維持されているといえよう。偏った「和解案」にBが応じること自体、すでにAとBとの対等性は崩壊していることを意味する。
 とするならば、係争処理制度の本旨は、勧告・判決で紛争を終局させることでもなければ、偏った「和解」をのませることで紛争を終結させることでもない。むしろ、係争状態を維持・継続できるようにすること自体が、係争処理制度の役割であろう。その意味では、係争処理手続にいったんは乗っても、両当事者に再度の協議を再開させるような勧告が基本である。あるいは、そもそも審理(両当事者間の協議)を継続させ、勧告などの結論を出さないことである。
 もちろん、再協議をして、A、B両当事者間に合意ができる見込みは小さいかもしれない。また、制度上は、第三者機関で結論が出ない場合には、高等裁判所に提訴することができてしまう。しかし、対等・協力関係にとってのセカンド・ベストは、非対等(上下・主従)・協調関係の創出ではなく、対等・対立関係状態の保護にあるともいえる。その意味で、裁判所で「和解」協議を続けさせるのも、正しい運用の一つであろう。

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