2023.06.12 まちづくり・地域づくり
第4回 「音楽」を活用したまちづくりの成功要因① 文化は“振興”からまちづくりの“基点”に──音楽を活用した新たな仕組みづくり
(2)音楽サークルの新規立ち上げによる地域活性化
ア 福井県
福井県と株式会社ヤマハミュージックジャパン(以下「ヤマハミュージックジャパン」という)は、2021年2月22日に「音楽を活用したまちづくり」の連携協定を締結し、「おとまち@福井プロジェクト」を始動した。
事業としては、福井県の各市町のホール等を拠点に、アマチュアによる音楽サークル団体を立ち上げ、活動を行うというものである。2021年度に4市町でスタートし、現在は6市町でサークル活動が行われている。おおむね月2回のサークル活動を経て、発表会も開催している。サークル活動がそれぞれの市町だけで完結するのではなく、年に一度、各市町のサークルが一堂に会する合同演奏会も開催している。
2023年1月に行われた5市町の音楽サークルジョイントコンサート(於:ハーモニーホールふくい)。永平寺町、越前市、若狭町、美浜町、鯖江市の115人が参加した。(写真提供:ヤマハミュージックジャパン)
通常、成人の音楽系サークルは、学校や職場、地域にもともとある部活やサークルの延長として、経験者が中心となって仲間を募って立ち上がるものが多く、あくまで市民の自発的な活動であり、自治体や教育委員会は「後援」という形で支援することが一般的である。このように計画的に各地域にサークルを新規でつくることを全県単位で構想する取組みは画期的であるといえる。
楽器の演奏技術の習得は時間がかかるばかりでなく、指導者や楽器を調達することも楽器店の少ない地域では大きなハードルであり、学校の部活や幼少時のピアノレッスンなど早期のアクセスがなかった人が成人になって取り組むには大きなモチベーションがないと難しい。本事業では、ヤマハミュージックジャパンが福井県の委託を受け、このサークル運営や指導に関するコンサルティング及び、参加者を対象に利用者負担なしでの楽器レンタルを行うことなどにより、初心者の参加ハードルを下げ、新たに集まった人たちだけでも持続可能なサークル運営を実現している。
福井県は2024年春に予定されている北陸新幹線の金沢~敦賀間の開業に大きな期待を寄せており、県民のくらしや仕事の向上につなげる都市機能の再構築「100年に一度のまちづくり」が進められている。時期を同じくするこの音楽サークルの取組みも、市町をまたいだ県民相互の交流拡大と同時に、コンサート活動を通じたにぎわい創出が期待されているものである。
すでにいくつかのサークルは地域の文化祭に呼ばれて演奏するなどしており、単なる趣味活動から地域の文化資源として活用が始まっている。いつまでも行政が支援するのではなく、自走に向けた道筋を描くことで、文化事業をまちの資源にしていくことが必要である。