2023.06.12 まちづくり・地域づくり
第4回 「音楽」を活用したまちづくりの成功要因① 文化は“振興”からまちづくりの“基点”に──音楽を活用した新たな仕組みづくり
音楽のまちづくり事例
(1)楽器不足をきっかけに新たなふるさと納税の仕組みを開発──三重県いなべ市
学校の吹奏楽部は、地域イベントの花形である。運動会や文化祭といった学校行事だけでなく、様々な式典や夏祭りなど人が集まる機会に華を添える存在でもある。一方で、学校で使われる楽器は、どの自治体でも十分な購入予算があるとはいえず、学校設立時や吹奏楽部を新設した年にまとめて購入し、その後は修理をしながら長年使っている例が多い。しかし、楽器の耐用年数は、楽器にもよるが10年程度であり、また運動会などの行事の演奏で屋外で使用したりすると、どんどん劣化していくものである。こうした楽器不足を、顧問の教諭が個人購入で補っている学校も多い。筆者も小学校の器楽部で最初に使っていたオーボエという木管楽器は顧問教諭の私物で、異動に伴い楽器がなくなってしまうという憂き目に遭った経験がある。
三重県いなべ市では、この楽器不足という課題を認識した上で、民間企業との協働により、個人が所有する休眠楽器を、自治体を通じて学校や音楽団体等に寄贈することにより、寄附楽器の査定価格が税金控除される「ふるさと納税制度」を活用した、物納による画期的な「楽器寄附ふるさと納税」の仕組みをつくり出した。2020年にはいなべ市が、本事業の取組みにおいて総務省「ふるさとづくり大賞」の「地方自治体表彰」を受賞している(2)。
本事業は、一つの自治体から始まったアイデアが他の自治体にも広がっていることも大きな特徴である。楽器寄附ふるさと納税の取組みは、2023年現在、22自治体まで広がっている。自治体にない機能(寄附受付・楽器査定)を民間事業者に委託することで、同じスキームを使って他の自治体への横展開が可能になっている。その背景として、地域の楽器不足、予算不足といった全国共通の課題が見いだせたということもある。一つの自治体で取り組んだ課題解決を、公民連携によって全国展開できるという事例は、今後別の社会課題に対しても応用可能であろう。
また、この事業のよいところは、「思い」が介在しているということである。寄附に対して感謝状が贈られた寄附者は、自分がかつて使っていた楽器の演奏を聴くためにその自治体を訪れることもあるという。衣料品や本の寄附などではなかなかここまで行動につながることはないのではないか。音楽がつないだ新しい関係人口の形である。
寄附された楽器を手に喜ぶ生徒。(写真提供:楽器寄附ふるさと納税実行委員会)