2023.05.25 政策研究
第38回 協調性(その1):統制・協調・対立・一致
三層制での関係性
以上の議論は、基本的には二層制を想定していた。つまり、国と自治体、国と都道府県、都道府県と市区町村、という政府間関係である。しかし、現代日本では、国─都道府県─市区町村という三層制である。三層制であっても、垂直的関係と水平的関係は、二層制の議論と同型であるということもできる。しかし、三層制には、二層制には収まらない関係性が発生する。
第1に、斜めの垂直的関係である。もちろん、論理的には、国レベルでも多数性が想定されていたので、二層制でも台形関係が存在することは、上述のとおりである。しかし、都道府県の多数性は、国の多数性より、さらに自明のことである。A県、B県、C市(A県内)、D市(B県内)の関係は、4本の垂直的関係性が存在する(図5)。C市は、A県との垂直的関係が制度的に想定されているが、B県との垂直的関係が否定されているわけではない。
図5
もっとも、B県とC市の関係では、越境合併などの場合を除けば、制度的な指導監督関係が成立しない。また、区域が重複することもない。この点では、国の多数性を想定した斜めの垂直的関係とは、性格が異なるともいえよう。その意味では、ここでいう斜めの垂直的関係は、つまり他県と市区町村の関係は、むしろ水平的関係に整理した方がよいかもしれない(図6)。
図6
第2に、三層制の場合には、垂直的協調・対立・統制関係が併存することがあり得る。例えば、国はA県とは垂直的対立関係にあるが、国とC市(A県内)とは垂直的協調関係にあるかもしれない。あるいは、国はC市に対しては、利害対立があるとしても、権力を行使することで、垂直的統制関係に入って、国と方針が一致することもあろう(図7)。これに対して、A県は国からの統制に対し抵抗力があるため、垂直的対立関係が維持できているかもしれない。この場合には、A県は国とC市の両方から挟撃されることもあるだろう。
図7
三者の協調・対立関係は、論理的には他の関係もあり、表のとおりである。
表
上述(図7)の形態は、②(国市協調型)である。①(三者協調型)は全てが協調する。⑤(三者対立型)は全てがそれぞれに対立する。「敵の敵は味方」とは限らないからである。③(国県協調型)では、国とA県が一体となって、C市への垂直的統制を進めるかもしれない。また、④(県市協調型)では、国の垂直的統制に対して、県市が一体して抵抗するかもしれない。もちろん、国・都道府県・市区町村の方針は可変的であるから、①から⑤の関係性は変わり得る。また、関係性を変える試みこそが、統制や説得・抵抗の営みである。
(1) もちろん、現実のA、Bの主張も、A、Bが一致した合意も、数量的には示されないことが普通であるから、あくまで比喩的・イメージ的なものである。
(2) 府(内閣府)・省(各省)・院(会計検査院・人事院)は比較的に単位としては明確に教えやすいが、庁・委員会については難しい。2001年省庁再編までは、大臣をトップに据える庁・委員会を単位とすることが普通だったが、それでも公正取引委員会の扱いが難しい。例えば、消費者委員会の委員長・委員や消費者庁長官は大臣ではないが、内閣府特命担当大臣が置かれているので、一つの単位とできるかもしれないが、原子力規制委員会・原子力規制庁は、内閣府特命担当大臣(原子力防災)とは別々に一つの単位なのかもしれない。さらに、例えば、気象庁は特段の大臣を有していないが、自治体に対する防災情報の発出としては、国土交通省からはかなり自律的である。