2023.05.25 政策研究
第38回 協調性(その1):統制・協調・対立・一致
三角形と台形(矩形(くけい))の関係性
国と自治体との政府間関係を前提にすれば、垂直的関係と水平的関係に理念的には区別される(図1)。それゆえ、これまで競争性に関して述べてきたように、自治体に着目すれば、垂直的競争と水平的競争があり得る。同様に、協調性においても、垂直的協調と水平的協調があり得るだろう。
図1
国は単一主体であるならば、国に視点を据えれば、垂直的(競争・協調)関係はあり得ても、水平的(競争・協調)関係はあり得ない。しかし、国は多数の機関からなる複合体と捉えれば、国レベルでも水平的競争はあり得ることも、前々回(第36回)で触れたとおりである。国レベルで水平的協調が強固な状態であれば、国が単一主体となる。国の単一性と自治体の多数性がセットになれば、垂直的関係と水平的関係は三角形の階統制となる(図2)。しかし、国の多数性を前提にすれば、垂直関係と水平関係は四角形(台形・矩形)のような形態となる(図3)。したがって、垂直関係は多数の斜線のイメージになる。もっとも、国の多数性といっても、三権分立ならば3、府・省・庁・委員会・院単位ならば20?30程度と、依然として自治体の多数性の方が圧倒的である(2)。しかし、局・課単位で国が多数に分立しているのであれば、自治体の首長から見た国の方が多数であろう。もちろん、自治体内部も多数に分立しているならば、国と比べて、自治体の方が圧倒的に多数である。
図2
図3
垂直的協調性と水平的協調性
自治体は、垂直的協調性と水平的協調性を形成することがある。例えば、都道府県は、国と協調関係に立つこともあり、また、他の都道府県と協調関係に立つこともある。しかし、三角形の階統制では、A県が国と垂直的協調関係に立ち、かつ、B県が国と垂直的協調関係であるならば、A県とB県の水平的協調関係が形成されなくてもよい。そもそも、A、B間での関係性すら必要ないかもしれない。
しばしば、A県とB県は利害対立関係に立つ。このときに、国が垂直的協調を利用して、A、B間の対立を調停する可能性がある。しかし、国は、A、B間の水平的対立関係や水平的競争関係を利用して、国はA及びBに対する垂直的統制に活用するかもしれない。すでに、水平的競争関係が垂直的統制関係と相性がよいことは、前々回(第36回)にも触れたところである。この場合には、そもそも、垂直的協調関係自体が成立せず、垂直的統制関係を意味する。このように考えるならば、国とA県・B県間で垂直的協調関係が成立するには、A、B間が水平的協調をすることが必要であろう。
また、逆に、国はA、B間の水平的対立が激しすぎて、Aに対しても、Bに対しても、充分な影響力を発揮できないこともある。国の影響力が抑制される関係で、国とAとの間で、また、国とBとの間で、垂直的協調関係が形成されやすくなるかもしれない。この場合には、国とAとの間の垂直的協調と、国とBとの間の垂直的協調は、A、B間の対立関係の激しさに支えられていることもあり得る。
A、B間の水平的対立・競争は、垂直的統制を促すこともあり得るが、垂直的協調を促すこともある。したがって、A、B間の水平的関係が、垂直的関係にどのように作用するかは、個々の案件ごとの関係性を子細に分析する必要があろう。