2023.05.12 まちづくり・地域づくり
第3回 持続発展可能なまちづくりを実現する「活動人口」②~自分たちのまちは、自分たちでつくる~
(3)STEP3:価値共創が生まれるまちづくり
【偶然が起こる機会の創出、場の形成】
STEP3:価値共創が生まれるまちづくりでは、偶然が起こる機会の創出、場の形成を提案する。ここまでのSTEPで、「量」から「質」へのマインドセット、地域で価値を創出するための人的資本の呼び込みを提案した。このアクターたちの営みが資源統合されることによって価値共創が起こっていくことは前述のとおりである。多様なアクターをまちに呼び込んだだけでは、偶然、価値共創が起きることを待つしかない。この価値共創を誘発するのは偶発性である。行政としてできることは、この偶然が起こる機会の創出、場の形成である。
鎌倉市は、鎌倉リビングラボ、ファブラボ鎌倉にて大学と連携し、住民、企業との価値共創の場をつくり、熱海市はリノベーションまちづくりにて、地域内外のアクターの価値共創の場をつくっている。地域課題解決に向けた実証実験の実施なども有効であろう。これら住民と地域外のアクター同士の共創は、神山町、上勝町、海士町などにも見られ、過疎地域型にも有効であると考えられる。
また、流山市や戸田市では、既存住民と新住民間での価値共創を起こすため、住民主体の新たなイベント開催などの支援をしている。住民同士が協働しイベントをつくり上げる過程で価値共創が起こり、自分ごと化した人々が増え、活動人口につながっていく事例である。
このように、偶然起こる価値創出の機会や場を行政が意識的につくっていくことが、価値共創を発生させ、活動人口の創出につながっていくだろう。
持続発展可能なまちづくりには、絶え間ない変化と新たな価値の創出が必要である。そのためには、そのまちに住まう人々、そして、そのまちに関わる人々がアクターとなり価値を共創していくことが重要である。
(4)STEP4:自分ごと化、当事者意識が芽生えるまちづくり
【アクターが輝ける余白・機会の創出】
STEP4:自分ごと化、当事者意識が芽生えるまちづくりでは、アクターが輝ける余白・機会の創出を提案する。STEP3:価値共創のプロセスの中で、住民はシビックプライドが醸成され、関係人口などのまちに関わるアクターはエンゲージメントが高まる。これらの事象により、当事者意識を持ち、まちが自分ごと化され、それぞれの人口は活動人口としてさらに活躍していくのである。
では、この当事者意識、「自分たちのまちは自分たちの手でつくるんだ」という自分ごと化は、どのようにして生まれるのか、そして行政は、どのようにしてこのような人々を増やしていけるのだろうか。ここでは、シビックプライドとエンゲージメントをキーとした。
上勝町では、「1Q運動会」を通して、地域の課題と向き合い、企画から実行まで住民が行うという機会によって、まちづくりが自分ごと化していった。また、熱海市では、リノベーションまちづくりという形で地域の課題解決に向けて地域内外のアクターがまちについて考えた。その結果、住民は自分のまちについて考え、自分たちのまちを自分たちの手で何とかするんだという、シビックプライドが芽生えていった。
また、神戸市では、副業・兼業人材活用事業を行い、地域の事業所に地域外の人材に副業・兼業してもらうことで地域企業の支援となることはもちろん、地域外の人材にとっては、「数日、企業さんで働いたことで、神戸が自分のまちになりました」というように、エンゲージメントが高まり、その地域を自分ごと化するようになっている。
このように、アクターが活躍できる「余白」を残すこともポイントである。今までは誰かがやってくれるだろうと自分ごとではなかったが、実際にその地域と関わり、活動することで自身の活躍の場ともなり、自己実現の場ともなるだろう。地域住民はシビックプライドが高まり、地域外人材はエンゲージメントが高まることで、まちを自分ごと化している。
行政は今までルールをつくり、インフラを整え、まちをマネジメントしてきた。それ自体が悪いことではなく、これまでの経済発展において、行政の役割であったと考える。
しかし、これからは「ファシリテーション(facilitation)」という役割を担うべきである。まちづくりにおいては、すべてのアクターが主体である。その中には行政も入っており、まちづくりをすべて住民に委ねるわけではない。しかし、行政がすべてを決めてマネジメントする時代は終わったのだ。これからは、主役である住民が輝ける、そんなまちづくりの「ファシリテーター」としての役割が求められる。