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2023.04.10 まちづくり・地域づくり

第2回 持続発展可能なまちづくりを実現する「活動人口」①~人口減少時代に注目すべき「活動人口」とその好事例~

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3 活動人口に関連した地方創生の好事例(流山市、鎌倉市、徳島県神山町)

 本節は、筆者の社会構想大学院大学 研究成果報告書における各自治体へのインタビュー調査をもとに作成したものである。調査では、「地方中枢都市型」として仙台市、神戸市、相模原市、「大都市近郊型」として流山市、戸田市、「観光地型」として鎌倉市、熱海市、「過疎地域型」として徳島県上勝町、神山町、島根県海士町の10の自治体を調査した。今回は、この中から流山市、鎌倉市、徳島県神山町を紹介する。

(1)流山市
 流山市は、人口約20万人のまちであり、「母になるなら、流山市。」のコピーが有名である。子育て施策による人口誘致施策に成功したまちというイメージあるが、実は内発的な取組みにも注力している。流山市は、地理的条件を生かして東京からの人口誘致に成功し、人口は令和2年国勢調査で19万9,849人、5年前と比べ14.6%人口が増加している。安定的な財源確保ができ、分かりやすい指標である定住人口の確保を第一に掲げ成功してきた。
 一方で、調査の中では、「人口をむやみに増やしたいとは思っていない」という回答が得られた。一定数の移住定住人口はまちの新陳代謝として必要としているが、「昔から、量ではなく質をとりたいといっている」、「結局まちは人でできているので、その人が自分らしく楽しく暮らせないと、縛りつけて定住していただいても意味がない」というように、人口を「量」だけで捉えていない。
 このような中、流山市では、住民が始めた活動ややりたいこと、そのニーズを見逃さずに、行政主導ではなく、住民の活動を応援する施策をとっている。これにより、住民は自分の夢や自己実現をこのまちでできたと感じ、まち=自分になる。まちがアイデンティティになる人たちを増やしていくと、その人たちが、周りに宣伝してくれる。さらには活動の中で他の住民を巻き込んでくれたり、市外の企業を連れてきてくれたりすることもあるという。
 このように、流山市では、人口誘致政策だけにとどまらず、その後、地域の活動的な人々に光を当て、さらに活躍できる機会の創出に努めていることが分かる。住民間の価値共創を促し、活動人口を創出している好事例である。

(2)鎌倉市
 鎌倉市は、人口約17万人のまちであり、鎌倉時代から政治文化の中心として栄え、現在は、歴史的遺産に多くの観光客が訪れる地域である。また、その文化的な風土や東京に近く海、山などの自然環境に恵まれており、クリエイティブ人材が集積している地域でもある。
 この鎌倉市では、市民自治の確立を基本理念に掲げ、総合計画に「共創」の視点を取り入れている。市民力・地域力を最大化し、まちに新たな価値を創造することを目指し、市民・NPO・企業・教育機関等、様々なステークホルダーとの共創関係を築くこととしている。
 具体的な取組みとして、日本の自治体で唯一、Fab City宣言をしている。Fab City宣言とは「Fab Lab(ファブラボ)」活動の世界的なネットワークに参加することの意思表示であり、このFab Labとは、3Dプリンター、3Dスキャナー、レーザーカッターなどのデジタル機器の工作ツールを備えた、市民のための地域工房である。個人による自由なものづくりの可能性を広げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指している。そして、このFab Lab施設の運営は民間が行っており、行政はあくまで住民の活動を後方支援していくという姿勢であり、「自分たちのまちは自分たちでつくる」という思いがこの根幹にある。
 また、人口の捉え方としても、移住にとらわれず、鎌倉で一緒に活動する人を増やしていくという流動性のある捉え方をしている。面白いところに人が集まってくるように、同様の感覚で鎌倉に面白いことをやりたい人たちが集まってきたり、一歩踏み出す勇気を引き出す力が今の鎌倉にはあるのだという。自分事化した活動人口が新たな人的資本を呼び込む好事例である。

(3)徳島県神山町
 神山町は、人口約4,600人の徳島県内の山間地にある自治体である。サテライトオフィス誘致に成功したまちとしても有名であり、最近では、この春に開校した民間主導の高等専門学校「神山まるごと高専」が話題となっている。大都市から離れた過疎地域において、なぜこのような資本が呼び込めたのか。ここにも活動人口の存在が大きく寄与している。
 この地域は、地元住民たちの活動を機に立ち上げたNPO法人グリーンバレーを中心に1999年から「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」事業を展開し、2007年には、若者移住支援プログラム「ワーク・イン・レジデンス(WIR)」を開始した。このようにアーティストの誘致から対象を広げ、サテライトオフィスの誘致につなげていったのである。
 これらの成功の要因には、まちの寛容性がある。山間地域というと閉鎖的で外の文化や変化を受け入れにくいイメージがないだろうか。調査の中では、「集落に入ったら必ず地域の役を担わないといけないと強制するといづらくなる。たまたま今のプロジェクトが面白くて来たという人もいるので、縛りつけるようなことがあってはいけない」というように、地域の価値観を押しつけることがない。しかし、これは一朝一夕になったことではなく、1990年に海外からアーティストを連れてきたという大胆な取組みから30年かけてつくられてきた土壌が存在しているのである。この地域には、外部からの人的資本が飛び込みやすく、活躍しやすい土壌が築かれていて、その資本の集積がまた新たな資本を呼び込む好循環が生まれている好事例である。
 本稿は、社会構想大学院大学に提出した研究成果報告書(修士論文相当)をもとに作成している。ヒアリング調査を受け入れてくれた流山市、鎌倉市、神山町には、ここで改めて御礼申し上げる。なお、本稿は筆者個人の見解であり、所属組織の意見ではないことを申し添える。
 次回は、これら好事例の共通点を概念化することで得られた、活動人口が生まれるプロセスとそれらの人々が持続発展可能なまちづくりにどのように寄与していくのかを明らかにする。
 

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