2023.03.27 政策研究
第36回 競争性(その5):水平的競争と垂直的統制
二層の水平的競争
自治体間の水平的競争は、国による垂直的統制を生み出す。しかし、自治体が国レベルでの水平的競争を利用することができれば、国による垂直的統制は弱められる。それどころか、自治体による国に対する垂直的統制の可能性が開かれる。国は単一であるならば、国レベルにおける水平的競争は、あり得ないはずである。
第1に、自国と外国とを天秤(てんびん)にかけることができれば、国際的な競争を利用することができる。自国がある自治体に有利に制度・政策を配慮しなければ、外国に働きかけることがありうる。もちろん、自国政府は、こうした「自治体外交」を抑圧してくるだろう。また、外国同士を競争させることもできる。このときには、自国政府にとっても、こうした「自治体外交」がマイナスに作用するわけではない。
第2に、自国内の国レベルでも、建前的には三権分立であるから、行政府(内閣・各府省)の意向が、司法府や立法府と一致している保証はない。つまり、行政府の意向に反しても、裁判所や国会に救済してもらえる可能性は、ないわけではない。国レベルの三権間の水平的競争は、自治体にとっては、国の垂直的統制を緩和する可能性がある。
ただし、戦後日本の場合には、こうした期待は薄い。なぜならば、立法府の多数派は政府与党であり、行政府と立法府の意向がずれることは例外である。唯一あり得るのは、参議院で与党少数の「ねじれ国会」であるが、この場合、立法府は行政府の意思を否定することはできても、独自の意思を表明してくれるわけではないからである。また、裁判所が行政府の意向を否定することは、戦後日本ではほとんどない。なぜならば、最高裁判官は内閣の任命事項であり、最高裁判所事務総局が全国の裁判所裁判官の人事を掌握しているからである。そして、政権交代が実質的にない以上、同一の「万年与党」の了解を得られる人間しか、裁判官になれないわけである。
第3に、現実には、国は、各府省・各局各課で分立している。通常、こうした分立は、それぞれ別個に矛盾・重複する縦割統制となって、垂直的統制を緩和することなく、単に重畳・追加するだけで、自治体にとって不便である。例えば、ある事業を行うときに、A省の統制(法令・補助基準など)と、B省の統制(法令基準)などとを、両方とも満たさなければならない。あるいは、別々の省に関わる別々の事業として、実質的には一体の事業を無駄に切り分けなければならない。したがって、自治体としては、こうした垂直的縦割統制の弊害を是正するためには、国レベルでの統一的対応を期待するぐらいである。しかし、一枚岩の国が形成されれば、調整された垂直的総合統制は強化されるだけである。
しかし、国の各府省・各局各課間で、似たような政策・事業を展開し、自治体がそのどれかを選択すれば済むときには、国レベルの水平的競争を自治体は利用することができる。例えば、地域振興に役立つような補助金事業を各府省・各局各課が持っている場合には、自治体は最も有利な補助事業に申請すればよい。自治体としては、林道・農道でも、一般道・高速道でも、とにかく、地域に役立つ道路的なものが整備されればよい。仮に、国レベルで似たような政策・事業が濫立すれば、自治体がそれを利用する余地は高まる。逆にいえば、国としては、それぞれの政策・事業は、それぞれ異なった目的・対象などで棲(す)み分けるようにして、国レベルでの競合を避けようとしている。このように棲み分けがされれば、それぞれの国の政策・事業に、それぞれの条件が付され、自治体はその中での水平的競争にさらされるのである。