2023.03.10 政策研究
第15回 政策(議会基本条例)と議会・議員(下)
結び
議会は合議制機関であるため、慎重さ・公正さ・民主的正統性などのよい面があるといわれる。しかし、他方では「集合の誤謬(ごびゅう)性」に陥る可能性がないとはいえない。また、間違った参照をして誤った政策導入をしないことも大切である。これらの問題を超克するためには、公開された話し合い(議論)が必要になる。議会基本条例に何らかの「話し合い(議論)」の規定があることは少なくないが、もう少し具体的に条例に規定したり、規則で「話し合い」の規定を充実させることが必要な場合もあろう。
また、議会基本条例は、「分かりやすい」ことが求められる。分かりやすくなければ関係者(市民・議員・首長・職員等)から関心を持たれなくなってしまう。制度的な枠組みやインセンティブがないと、条例に関心を持ち続けること、条例に関心を持ち続けてもらうことは難しい。
ところで、かつて「真っすぐだった議員」も、「既得権益まみれの議員」となりうる。首長も市民もそうなりうる。職員も首長周辺(中枢)に居続けると変化を起こしづらくなってしまう。変化を起こし続けようとすれば中枢から外されることもある。やがて、悪い意味での忖度(そんたく)する職員になる。「この決定で、あの声を出せない市民の生活に、どんな影響があるか」を考えることができなくなる。そのような議員・首長・職員等は劣化している。
しかし、行政に比べて改革のタイミングが遅かったといわれる議会改革(神原 2019:10-13)が今、急激に進んでいる。議会改革を通した自治体の進展を期待したい。議会基本条例を活用した議会運営、自治体運営は、自治体政府(議会・行政)の力量を向上させる。
可能性を追求することで生じる失敗もある。しかし、困難や試練に直面したときに、初めてその人の意思の強さや節操の堅固さ、人間としての値打ちが分かるという。誤りに気がついたら正せばいい。今、改めて諦めない政治、諦めない議会、諦めない議員の創出を待望する。議会関係者(議員・議会事務局職員)の日々の努力に期待したい。市民や行政(首長・執行部職員)も議会の努力を迎望している。そして、議員は議会活動から人生の本質を考えることもあろう。
■参考文献
◇石橋章市朗(2018)「形成─問題から解決策へ─」石橋章市朗=佐野亘=土山希美枝=南島和久『公共政策学』ミネルヴァ書房、115~137頁
◇伊藤修一郎(2015)「アジェンダ設定─どの政策課題を検討するか?」秋吉貴雄=伊藤修一郎=北山俊哉『公共政策学の基礎〈新版〉』有斐閣、44~66頁
◇神原勝(2019)『議会が変われば自治体が変わる【神原勝・議会改革論集】』公人の友社
◇江藤俊昭(2021)「『住民自治の根幹としての議会』の改革の新展開─改革を進めるための議会評価の試み─」自治総研517号、1~40頁
◇江藤俊昭(2022)「議員報酬・政務活動費の充実に向けた論点と手続き~住民福祉の向上を実現する町村議会のための条件整備~」(全国町村議会議長会 委託研究事業)
◇田中富雄(2021)「講座 自治体議員のための政策型思考! 第4回 課題抽出と議会」議員NAVI 2021年1月15日号
◇村田和代(2011)「協働型ディスカッションのファシリテーターとは─ことばの機能とラポールの構築」土山希美枝=村田和代=深尾昌峰『対話と議論で〈つなぎ・ひきだす〉ファシリテート能力育成ハンドブック(地域ガバナンスシステム・シリーズNo.15)』公人の友社
◇村田和代(2020)「異なるものをつなぐ『話し合い』の可能性」問いを深め合うディスカッションメディアsyn(2020年8月24日)
◇渡辺三省(2018a)「議会事務局職員のための議会改革の道しるべ 第1回 議会改⾰は『必然』と『偶然』の出会いから始まった」議員NAVI 2018年7月10日号
◇渡辺三省(2018b)「議会事務局職員のための議会改革の道しるべ 第2回 自治体議会の政策活動は多様であり多元的である~そのために議会事務局がなすべきこと~」議員NAVI 2018年8月10日号
(連載「自治体議会の特質から政策を考える」・完)