2023.03.10 政策研究
第15回 政策(議会基本条例)と議会・議員(下)
議会の特徴(多様性、討議、世論形成)と議論、情報の蓄積、研修・視察の視点
さて、江藤俊昭によれば、議会には合議制という特徴に由来して、①多様性(様々な角度から事象に関わり、課題を発見できる)、②討議(議会の本質の一つ:論点の明確化、合意の形成)、③世論形成(公開で討議する議員を見ることによる住民の意見の確信・修正・発見)、という特徴があるという(江藤 2021:1)。
これらの議会の特徴を生かすためには、議論の奥行・幅・方法を考えることもカギとなろう。すなわち、議会の「縦の奥行(歴史:昔・今・未来)」、「横の幅(地域・国・世界)」、「自他の方法(利己的・利他的)」などを考慮することが求められる。このような議論で情報が交流するとともに、新たな情報が生み出される。このことを効率的に行うためには、日頃気づいたことをスマートフォンやパソコン、ノート・手帳などに書き込み、考えをストックし発展させておくことも求められる。また、議会が理想に近づくための途中の取組み(試行錯誤)を保存しておくことも大切である。改選で議員が代わった場合、首長が代わり議会と行政の関係が変わった場合、そのほか自治体をめぐる環境が変わった場合等にも、そのストックが役立つであろう。
なお、研修や視察でも目的地に行き学ぶだけでは、効果が限られたものとなる。道草(みちくさ)を楽しむことで学びの効果が上がる。例えば、視察で他の議会や行政を訪れたときに、併せて視察先の市民の声を聴く場を設けることも有意義であるかもしれない。議会(議員)がよくても、あるいは自治体政府である議会や行政が改革したつもりでも、市民にとって役立たない政策では意味がない。「議会を見て市民・行政を見ず」、「議会・行政を見て市民を見ず」になってはいけない。議会には「市民も議会も行政も見る」ことが必要である。特に、「市民を見る」ことは、議会にとって第一にすべき事項である。もちろん、「見る」ことの中には、後述する「聴き合い」や「話し合い」、そして二つの「声なき声」(「サイレント・マイノリティ」の声と「サイレント・マジョリティ」の声)の把握が含まれる。
議員定数・議員報酬の低位平準化、「居眠り議会」、「寝すぎた議会」、「熟睡議会」
ここからは、自治体議員の議員定数・議員報酬について考えてみよう。1980年代に財政再建を唱道した臨調行革で、国は自治体に対して議会を含めた「地方行革」を求めた。以来30年、議員の定数も報酬も一貫して削減の道をたどった。神原勝によれば、当初は議会を行政と同列視して削減することに疑問を呈する向きもあったが、大きな声にはならず、やがて定数・報酬の削減を議会改革の中心課題と考えるマスコミ報道と相まって、市民の意識もそのように染まっていったという(神原 2019:300)。
そして、神原は次のようにいう。市民が削減を求める理由として2013年当時いろいろな要因があった。例えば、①財政逼迫(ひっぱく)のゆえ行政のみならず議会も削減すべし(財政要因)、②近隣や同規模の議会の削減に倣うべし(横並び要因)、③人口減に対応して議員も減らすべし(人口要因)、④役立たない議会は人数は少なく報酬も低くてよい(不信要因)、⑤議員候補者が少なく定数割れの危険もある(選挙要因)などである(神原 2019:300)。けれどもこれらは、議会に対する低い評価や不信を前提に、いわば「安かろう→悪かろう」を繰り返すジリ貧の発想である。そして、議会は、目先のリスクが少ない②の横並びで削減してきた。これを長年続けた結果、定数と報酬は低位に平準化したという(神原 2019:300)。
「居眠り議会」、「熟睡議会」は、自らが「安かろう→悪かろう」を繰り返すジリ貧のサイクルに陥っていることにも気づかないであろう。目覚めれば、「寝すぎた議会」でも、時間はかかるかもしれないが打つ手はある。立ち直れる。近年は、議員報酬をアップしたり、議員定数を少なくとも削減しない議会も見られる。なお、「安くなく悪い『居眠り議会』、『熟睡議会』」の存在も避けなければならない。