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2023.02.27 政策研究

第35回 競争性(その4):足による投票

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可動性の高い人は誰か

 可動性の差違を何が左右するかは難しい問題である。例えば、経済的な利害得失が作用しているかもしれない。富裕層は移動の費用を負担できるので可動性が高いだろう。貧困層は、移動の費用を負担することは容易ではないが、しかし、その地で得ている利益も小さいので、移動によって失うものも小さい。その意味で、可動性が高くなることもある。中間層は、移動の費用を負担できるほど余裕はないが、移動によってそこそこ失うものもあるので、可動性が最も低いかもしれない。そして、最底辺層は、失うものもないが、最小限の移動の費用すら負担できないので、貧困層と違って可動性がないかもしれない。
 あるいは、どこでも仕事ができる有能者は、可動性が高いだろう。例えば、医師やコンピュータ技術者など、高度の技能を持った人間であれば、どこでも仕事にありつけるから、心配なく転出できる。あるいは、建設作業員であれば、仕事さえあればどこでも構わないかもしれない。しかし、どこでも仕事にありつけるほど有能ではないが、今、たまたまある地で仕事にありついているときには、移動をしたくはない。また、ある土地に根を張って仕事をする場合には、移動は簡単ではない。商売をする人は、商売の才覚自体は高度だとしても、地元顧客を離れて、転出先で商売が成功するとは限らない。農林業者も、高度なスキルがあったとしても、農地・山林から切り離されては、仕事にならないかもしれない。しかし、これらの商業者・農林業者も、やはりスキルの高低で可動性が変わっているのかもしれない。そして、どこでも仕事にありつけないのであれば、その地にとどまる意味はないから、可動性は高いかもしれない。
 また、地域の柵ということもあろう。例えば、昔ながらの家制度を想定すれば、「長男」は地元から出ていく選択肢はない。家業を継ぎ、先祖の墓を守り、老親の老後の面倒を(嫁に)看(させ)て、跡継ぎの子どもを(妻に)産み育て(させて)、家業を継がせ、「先祖代々」の土地(農地や山林など)を守る、という責務が課されることがある。このようなタイプの人間が集団Ⅱを構成するかもしれない。これに比べて、「次三男」や「娘」の場合には、そもそも地元に残る選択肢がないかもしれない。もっとも、「娘」がどこかの「長男の嫁」になってしまえば、離婚でもしない限り、嫁ぎ先の地の「長男の嫁」の責務を負うことになり、嫁ぎ先の地の集団Ⅱに加わるかもしれない。
 さらにいえば、可動性の範囲は、自治体間の状況にもよる。例えば、大都市圏近郊の自治体間であれば、都心への通勤世帯の人であれば、転職する必要はないから、居住地を選択できるかもしれない。しかし、この人は、地方圏や中山間地などという遠方に対する可動性が高いわけではない。この場合には、現在の職場を辞めなければならないからである。いわゆる、企業内の広域配置転換で、遠方に移動(人事異動)することはあるが、これは「足による投票」の可動性とは無関係であろう。また、大都市圏郊外から大都市都心に転居できるわけではないのは、都心居住は経済的に負担が大きすぎるからである。もっとも、都心部に手頃(アフォーダブル)な住宅が提供されれば、都心部と郊外部の双方が選択肢に入る。また、郊外鉄道の高速化(通勤特急・新幹線通勤など)などがあれば、あるいは、オンライン在宅勤務が容易であれば、郊外部だけではなく、もっと遠くの範囲も可動性の範囲に入るかもしれない。

(1) 国(連邦)レベルでも、国際的な転出入(つまり移民)があれば、同じように「足による投票」が作用する。その意味では、国(連邦)も自治体(州)に比べて劣るとは限らない。移動のしやすさ(可動性)に影響される。可動性については、国内の自治体間でも重要なので、後述する。一般に、国際移動は、グローバルに生きていけるコスモポリタンな上級富裕層と、自国に特段の稼ぎの場が確立されない下級底辺層(移民単純労働者)が容易で、中間層が困難である。
 

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