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2023.01.25 議会改革

第35回 判決に見る自治体議会─裁判所は自治体議会をどう見ているか─

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4 立法者としての自治体議会に対する見方

 最高裁は、立法機関である国会について述べる場合には、国会のほか、立法府、立法者などの表現を用いるが、しばしば、擬人化されるとともに、合理的な立法者像として描かれる(11)。すなわち、最高裁は、法律の憲法適合性などについて審査する場合には、基本的に、まず立法裁量を認めた上で、その裁量の逸脱や濫用の有無を審査するという姿勢をとっており、その裁量の範囲内であればとりあえず合理性があるとする以上は、建前としては、専門性を備え公共の利益のために合理的な判断を行う立法者を前提とせざるをえないのかもしれない。「国権の最高機関」や「唯一の立法機関」とされる国会に対する敬譲ということもありそうだが、もっとも、それを額面どおりに受け取ってよいかどうかは、慎重にその行間や背景を読む必要もあり(12)、また、時に本音やいら立ちが判決文の中に顔をのぞかせることもある。
 いずれにしても、どのような評価が妥当かはともかく、そのような最高裁が描く立法者像については、マス・メディアなどによって喧伝(けんでん)され、一般に抱かれる国会像とのギャップは大きいようにも見えるが、最高裁はあくまでも建前論に立っているともいえる。
 これに対して、条例の制定者である自治体議会については、どうだろうか。
 まず、条例について、大阪市売春取締条例事件・最大判昭和37年5月30日刑集16巻5号577頁は、地方自治法14条に基づく条例の罰則の定めが憲法に反しないとする中で、「条例は、法律以下の法令といつても、……公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものである」ことをその理由の一つとして挙げている。議会が制定することをもって条例を法律に準ずるものと位置付けるものだ。
 もっとも、その一方で、議会を「立法者」として捉え、合理的な立法者と想定するような記述はほとんど見られず、条例との関係で「立法者」という言葉を用いているのは、奈良県ため池条例について、最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁が、その条項が財産上の権利に著しい制限を加えるものであるとしつつ、「しかし、その制限の内容たるや、立法者が科学的根拠に基づき、ため池の破損、決かいを招く原因となるものと判断した、ため池の堤とうに竹本若しくは農作物を植え、または建物その他の工作物……を設置する行為を禁止することであり、そして、このような禁止規定の設けられた所以のものは、本条例一条にも示されているとおり、ため池の破損、決かい等による災害を未然に防止するにあると認められる」としたくだりにおいてであり、そこでも、自治体議会が立法者であることに特別の意味を見いだしたものとはなっていない。
 ちなみに、条例の制定主体として議会を正面から取り上げているものとして、議員定数較差訴訟判決があり、そこでは、議会の合理的な裁量を認め、衆議院議員の中選挙区選挙に関する最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁で示された判断枠組みを踏襲しているものの、国会の場合のように立法者である議会とのキャッチボールではなく、公職選挙法の規定の解釈を当てはめ一方的に判断を示そうとする印象が強い。
 他方、最高裁判決を中心に見る限りでは、長提出による条例が大半を占めていることが影響しているかどうかはともかく、議会の審議過程が参照されることは多くない。また、条例については、その規定の立法技術上の問題や稚拙さが裁判所によって指摘されることもある。
 例えば、徳島市公安条例事件・最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁は、本件条例の「交通秩序を維持すること」という規定は、その文言だけからすれば単に抽象的に交通秩序を維持すべきことを命じているだけで、いかなる作為・不作為を命じているのかその義務内容が具体的に明らかにされておらず、全国の公安条例の多くはその条件の中で遵守すべき義務内容を具体的に特定する方法がとられており、また、条例自体の中で遵守義務を定めている場合でも交通秩序を侵害するおそれのある行為の典型的なものをできる限り列挙例示することによって義務内容の明確化を図ることが十分可能であるにもかかわらず、何ら考慮を払っていないことは、立法措置として著しく妥当を欠くと指摘する。
 また、広島市暴走族追放条例事件・最判平成19年9月18日刑集61巻6号601頁も、「本条例は、暴走族の定義において社会通念上の暴走族以外の集団が含まれる文言となっていること、禁止行為の対象及び市長の中止・退去命令の対象も社会通念上の暴走族以外の者の行為にも及ぶ文言となっていることなど、規定の仕方が適切ではなく、本条例がその文言どおりに適用されることになると、規制の対象が広範囲に及び、憲法21条1項及び31条との関係で問題がある」と判示しており、さらに、その補足意見では「一般に条例については、法律と比較し、文言上の不明確性が見られることは稀ではない」とも述べている。
 もっともだからといって、最高裁は、条例を違法とすることなく、条例全体から読み取れる趣旨や施行規則などを総合勘案したり、社会通念を持ち出したりすることで、やや無理筋とも思えるような限定解釈を施し、条例を救うことが多く(13)、そこでは、まるで教え諭すかのようなパターナリスティックな対応が行われているようにも見える。自治体関係者の中には、最高裁の苦言に複雑な思いを抱く向きもあるようだが、それはともかく、あたかも庇護(ひご)者のごとく、制定者の意図の変更をためらうこともなく、限定解釈を施すことにより条例を違法無効としないことは、逆に、自治体の側がそれに安住することで、自ら再考したり更なる工夫をしたりする機会(自己学習の機会)が失われることにもつながっているように思えるが、いかがだろうか。

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