2023.01.25 議会改革
第35回 判決に見る自治体議会─裁判所は自治体議会をどう見ているか─
3 議会の議事手続・議決と裁判所の審査
議院や議会の自律権ということでは、その議事手続や議決について、裁判所の審査の対象となりうるかどうか問題となるが、この点、衆参両議院に関しては、警察法改正無効事件・最大判昭和37年3月7日民集16巻3号445頁が、両議院の自主性の尊重のため議事手続について有効無効を判断すべきでないと判示している。
他方、自治体議会については、裁判所は、議会の議決の処分性を認めず、抗告訴訟によりその効力を争うことは認めていないが、議会の議事手続や議決の適法性に関しては審査を行ってきている。
例えば、開議の手続について、東京高判昭和32年7月24日行裁例集8巻7号1336頁は、閉議宣言後の会議につき、たとえ開議が急施を要する場合でも、少なくとも各議員に対して開議とその日時を通知する必要があることは明らかであるから、反対派議員に対して開議とその日時を通知することなく、これらの議員の出席なくして開かれた会議は、その開議手続に違法があり、このような会議における議決はすべて無効であるとし、その上告審である最判昭和33年2月4日民集12巻2号119頁もその判断を支持している。
また、会議の定足数に満たない議会における議決は当然無効であることを前提とした松山地判昭和25年4月20日行裁例集1巻2号159頁、議会において多数派議員が、当初から反対派議員の言論を圧迫し、議長もまた故意にこれを放任するにとどまらず、かえって反対派議員に質疑・応答・討論・審議の機会を全然与えず、審議未了のまま一挙に表決に移し議案を可決したことは、議決権の濫用であって、かような議決は取消しを免れないとした青森地判昭和25年6月15日行裁例集1巻5号707頁などの裁判例もある。このほか、秘密会での取扱いについて、最判昭和24年2月22日民集3巻2号44頁は、秘密会においても議決をできるとするとともに、議会で議員一人の発議に基づく採決の結果、秘密会を開くことに全員に異議のなかった場合は、その秘密会でした議決は無効ではないとの判断を示している。
議会の議決事項や条例事項とすることの意義として、執行機関による専断や濫用の防止、慎重審議、議会による民主的統制などが判決においても指摘されるが、そのことを踏まえつつも、裁判所により、議会の側の審議や議決のあり方が枠付けられることもある。
この点、最判平成17年11月17日裁判集民218号459頁は、財産の適正な対価によらない譲渡又は貸付けに係る地方自治法237条2項の議会の議決がなされたというためには、適正な対価によらないものであることを前提として審議された上議決されたことを要するとし、譲渡等の対価の妥当性について審議がされた上これを行うことを認める趣旨の議決がされたというだけでは、そのような審議・議決がされたということはできないとした。同判決やその後の同種事件の判決でも、裁判所は、実際にそのような審議があったといえるかどうかを審査しており、議会の審議・議決のあり方について法的統制を及ぼしている。
また、地方自治法96条1項10号により議会の議決事項とされる自治体の権利放棄につき、神戸市債権放棄議決事件・最判平成24年4月20日民集66巻6号2583頁は、その議会の議決及び長の執行行為という手続的要件を満たしている限り、その適否の実体的判断については、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される議会の裁量権に基本的に委ねられているとする。地方自治法に要件を限定する規定がない以上、ひとまず民主的機関である議会の裁量を認めたものといえるが、最高裁は、批判も生じていた住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の放棄の議決については、くぎを刺すことも忘れなかった。すなわち、「このような請求権が認められる場合は様々であり、個々の事案ごとに、当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、当該議決の趣旨及び経緯、当該請求権の放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して、これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする同法の趣旨等に照らして不合理であって上記の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となる」としている。具体的にどのような場合に違法となるかは事例の集積を待つとしても、議会の側も、その債権放棄の議決の適法性については裁判所の審査の対象となることを念頭に置いて慎重な対応をとるよう求めたものと見ることができる。
現に法律の規定の趣旨に反するとして議決を無効とした例もあり、東京高判平成13年8月27日判時1764号56頁は、応訴事件に係る和解のすべてが軽易な事項であるとして専決処分の対象とすることは、和解を原則として議会の議決事件とした地方自治法96条1項12号及び議会の権限のうち特に軽易な事項に限って長の専決処分に委ねることができる旨を規定している同法180条1項の趣旨に反するものであり、本件議決は、議会に委ねられた裁量権の範囲を逸脱するもので、同項に違反し無効であるとした。
以上のように、議会の議決は、自治体の意思決定としての重みをもつものであるが、法に適合するものである必要があり、その点では、議会の議決があったからといって特別の意味をもつものではない。このことは、住民監査請求及び住民訴訟においてもしかりであり、警察法改正無効事件最高裁判決は、それらは自治体の公金又は財産に関する長その他の職員の行為を対象とするものであって、議会の議決の是正を目的とするものでないとしつつ、「しかしながら、長その他の職員の公金の支出等は、一方において議会の議決に基くことを要するとともに、他面法令の規定に従わなければならないのは勿論であり、議会の議決があつたからというて、法令上違法な支出が適法な支出となる理由はない」とし、監査委員は、議会の議決があった場合にも長に対しその執行につき妥当な措置を要求することができ、ことに訴訟においては、議決に基づくものでも執行の禁止、制限等を求めることができるとして、原判決が本件支出について議会の議決があったことをもって直ちに請求を棄却すべきものとしたのは法令の解釈を誤った違法があると判示した。