2023.01.25 議会改革
第35回 判決に見る自治体議会─裁判所は自治体議会をどう見ているか─
(2)議員の責任と裁判
他方、自治体の場合には、住民監査請求・住民訴訟の制度などを通じて、議会の対応や議員の責任が問われうることになる。議員派遣、政務活動費など、社会的な批判の高まりを背景に、住民訴訟によりそのあり方が問われ、裁判所によって議会の決定の違法性や議員の責任(不当利得の返還や損害賠償の義務)が認められることも少なくない。
とりわけ、議員の派遣について、徳島県吉野町海外研修旅行費用等住民訴訟・最判平成9年9月30日裁判集民185号347頁は、自治体議会は、その機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合にはその裁量により議員を国内や海外に派遣できるとする一方で、裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは議会による議員派遣の決定が違法となるとして、観光に終始する日程の東南アジアへの研修旅行の派遣決定を違法とし、また、徳島県議会野球大会旅費等住民訴訟・最判平成15年1月17日民集57巻1号1頁も、大会の内容が単に議員が野球の対抗試合を行うものにすぎない野球大会への議員の派遣決定を違法とした。参加議員の不当利得返還の責任だけでなく、議会による派遣決定そのものの適法性が問われるものであることを議会の側もしっかりと受け止めるべきだろう。
また、政務活動費(政務調査費)についても、目黒区政務調査費住民訴訟・最判平成25年1月25日裁判集民243号11頁は、政務調査費の交付につき定める地方自治法100条13項の趣旨について「議会の審議能力を強化し、議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため、議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化したもの」とした上で、「そうすると、本件使途基準が調査研究費の内容として定める『会派又は議員が行う目黒区の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査…委託に要する経費』とは、議員の議会活動の基礎となる調査研究及び調査の委託に要する経費をいうものであり、議員としての議会活動を離れた活動に関する経費ないし当該行為の客観的な目的や性質に照らして議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為に関する経費は、これに該当しない」と判示した。地方自治法の規定の趣旨を使途基準の定めの解釈に反映させ、客観的な目的や性質に照らして議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間で合理的関連性を求めたものといえる。
もっとも、神奈川県議会政務活動費等住民訴訟・最判平成30年11月16日民集72巻6号993頁は、条例の返還規定の趣旨を踏まえ、交付された政務活動費等の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該年度において収支報告書上の支出の総額から実際には存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は県に対する不当利得返還義務を負わないとする。これは、このような場合の不正使用の責任追及については、議会や会派において自律的に行われるべきことを前提としたものともいえるが、残念ながら、その建前に反するような不正がいまだに次々と発覚している現実がある。