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2023.01.25 議会改革

第35回 判決に見る自治体議会─裁判所は自治体議会をどう見ているか─

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2 議員の役割・権能・責任の捉え方

(1)議員の役割・権能の位置付け
 それでは次に、議会の側としばしば対抗関係に立つ議員の役割、権能等について、裁判所は、どのように捉えているのだろうか。
 まず、布施市公会堂事件・最判昭和28年6月12日民集7巻6号663頁は、自治体議会議員の地位について、「議員は地方自治法の定めるところにより議決機関たる議会の構成員として市の意思決定に参与することができるけれども、議員としてなし得る事項は地方自治法その他法律中に定められており、これら法律の規定をはなれて議員なるが故に他の市民と異る立場に立つものではない」と述べる。
 他方、自治体議会における議員の役割・権能については、名古屋高判平成24年5月11日判時2163号10頁が、議員は、「議会本会議や委員会等における自由な討論、質問・質疑等を通じて、当該地方公共団体の住民の間に存する多元的な意見や諸々の利益を、当該地方公共団体の意思形成・事務執行等に反映させる役割を担っているのであるから、地方議会の議員には、表現の自由(憲法二一条)及び参政権の一態様として、地方議会等において発言する自由が保障されていて、議会等で発言することは、議員としての最も基本的・中核的な権利というべきである」とした上で、市議会において、がんで声帯を切除した議員に対し代読による発言の要請を認めなかったことは議員の発言の権利や自由を侵害する違法な行為であるとした。
 また、議員活動の自由ということでは、府中市政治倫理条例事件で、広島高判平成23年10月28日判時2144号91頁が、「憲法15条が国民主権の原理の表現として公務員を選挙する権利や立候補する自由を保障し、憲法93条2項が普通地方公共団体の議会の議員をその普通地方公共団体の住民が直接選挙することを保障している趣旨に照らせば、選挙で選ばれた住民の代表である議員の活動の自由にも憲法上の保障が及び、憲法21条1項の表現の自由として議会の議員の活動の自由が保障されている」としたのに対し、最判平成26年5月27日裁判集民247号1頁は、条例を無効とした原審の判断を破棄する中で、「本件規定が憲法21条1項に違反するかどうかは、2親等規制による議員活動の自由についての制約が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかによるものと解されるが、これは、その目的のために制約が必要とされる程度と、制約される自由の内容及び性質、具体的な制約の態様及び程度等を較量して決するのが相当である」と述べ、憲法21条1項との適合性について判断をした。
 もっとも、例えば、議会での発言や表決を議員個人(私人)としての権利自由と捉えられるかどうかは微妙なところもあり、最高裁の上記判決も、議員活動の自由の中身に言及することなく、警告や辞職勧告等の措置や公表による議員の政治的立場への影響を通じた議員活動の自由についての事実上の制約を問題としているにとどまる。そして、最高裁は、愛知県議会発言取消命令事件判決で、原審である名古屋高判平成29年2月2日判例地方自治434号18頁が、会議規則が議員の議事における発言を逐語により会議録原本に記載し、配布用会議録の議会外配布を定めた趣旨は、議員に対しその発言が記載された会議録の議会外配布によって住民に公開されることを保障したものとして、発言が配布用会議録に記載される権利は一般社会と直接関係する重要な権利としたのに対し、議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできないとの判断を示した。また、岩沼議会出席停止事件最高裁判決も、出席停止の懲罰により困難となるのは「議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動」、「住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすこと」とするなど、慎重な言い回しをしている。
 そもそも、議員の権利として議会の活動に出席して発言し表決することがいわれるが、それは個人的な権利自由の側面よりも住民の代表としての議員の権限・権能・職務といった側面が強いのであり(9)、議事等の円滑かつ効率的な運営や秩序の確保を図るため合理的な範囲内で一定の制約を受けうるものである。
 この点、本会議における無所属議員の一般質問の時間を年間20分とすること等を内容とする時間制を定める議会運営委員会の申合せにつき、渋谷区議会質問時間制限差止等請求事件・東京地判平成28年6月30日判タ1439号153頁は、本会議における議員の発言については、限られた会議時間内にできる限り多くの議員に発言をする機会を与えるなどの要請もあり、申合せ等の方法によりあらかじめ発言時間の配分等を定める時間制を設けることは、議会が自律的に定めうる措置であるというべきで、申合せ等にのっとって本会議における議員の発言の時間を制限することは基本的には議長の権限の範囲に属する事柄であって、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない議会の内部規律の問題にとどまる限り、裁判所が法規の解釈適用を通じて判断すべき「法律上の争訟」には当たらないとした。
 ただし、本会議や委員会における議員の発言は、住民の多様な意見や利害を自治体の意思形成や事務執行等に反映させる役割を担っている議員としての中核的な活動といえるのであり、議会において、合理的な理由もなく特定の議員の発言の機会を著しく制限するようなことまで許されるものではないと見るべきだろう(10)
 なお、議会において議員が実効的に活動を行い、その主張の実現を図るためには、主義主張等を同じくする他の議員と会派を形成することが必要となるが、この会派を結成する権利について、明石市議会代表者会事件神戸地裁判決は、あくまでも議会における会派結成や会派の活動に関係する利益にすぎないものであり、一般の国民が憲法上の保障がされているような基本的人権とは異なる性格のものであって、一般市民法秩序の下において法的に保護に値する利益であるとまでは評価し難いとする。
 

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