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2023.01.25 議会改革

第35回 判決に見る自治体議会─裁判所は自治体議会をどう見ているか─

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(4)自治体議会と部分社会論
 そもそも、部分社会論については、自律性や自主性を支える憲法上の根拠は様々であるにもかかわらず、その一般的・包括的な論法には批判もあり、統治団体とされる自治体の機関である議会を部分社会とみなすことには違和感もあったといえる(8)。自治体議会は、国から独立した自治体の議事機関として、憲法上規定された機関であるほか、その組織及び運営については地方自治の本旨に基づいて法律で定められるものとされるとともに、自治に関する重要事項を決定する権限を与えられ、住民自治を具現化する機関とされていることからすれば、その権能を適切に行使し、その職責を全うするためには、その組織及び運営に関して一定の自律性が認められていることが必要不可欠となる。
 その点では、国の機関である裁判所がその自律権をどの程度尊重すべきかの問題として考える必要があるといえるが、ただ、そこでは、国から独立して自己の意思と責任において決定するといった団体自治を裁判所と自治体議会との間に直接に持ち出すことが適当かどうかについては慎重な考慮を要する。
 いずれにしても、部分社会論が後景に退くに伴い最高裁によって用いられるようになるのが自治体議会の「自律的な権能」などであり、これについては、岩沼市議会出席停止事件最高裁判決以前にも、愛知県議会発言取消命令事件最高裁判決が、「議会の運営に関する事項については、議会の議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく、その性質上、議会の自律的な権能が尊重されるべきもの」と述べ、また、名張市議会厳重注意処分事件・最判平成31年2月14日民集73巻2号123頁でも、山北村議会出席停止事件最高裁判決の趣旨を引用する中で、「議会は、地方自治の本旨に基づき自律的な法規範を有するもの」などと読み替えていた。
 以上のように、自治体議会の運営や規律に関する事項については、裁判所は、その自律的な権能を認めつつ、その裁量の範囲の逸脱や濫用について法的統制を及ぼすという姿勢をとるようになってきているといえるが、その位置付けや程度についてはなお限定的で、かつ審査の余地を残したものともなっており、裁判所の審査を外在的に制約する自治体議会の自律権を正面から認めることにはなお慎重な姿勢をとっているようにも見える。
 それには、自治体議会に関する法制度、これまでの裁判所の姿勢・対応、自治体議会の現状などが関係しているように思われるが、とりわけ、議会において多数派による少数者の権利利益の制限・侵害、ルールの軽視・無視など様々な問題を生じている状況が少なからぬ影響を及ぼしているのではないだろうか。そのような場合に、議会の自律性を尊重することは、裁判所による統制・保護を及ぼさず、権利利益を救済しないことになるのであり、それは憲法が保障する裁判を受ける権利の制約にもつながりかねない。
 議会の規律権をめぐる紛争については、今後は、議会の性質・機能・自律性と議員の権利の性質・制約の程度などを勘案して裁判所の審査の対象とするかどうかが判断されることになると思われるが、公開の議場における戒告や陳謝についても、その事由も含め地方自治法が定めているものであり、仮に議員の中核的活動を実質的に制約することになるような場合であれば、審査の対象とされる可能性もある。
 自治体議会の自律的な権能や判断がどこまで認められるかは、それぞれの議会での適切な運営・運用などその姿勢にかかっているといえる。自治体議会は、住民を代表し、自治体の意思を決定する機関であるが、あくまでも裁判所による統制が控えた法に規律される機関なのである。

 

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