2023.01.25 政策研究
第12回 有機農業の普及で健全な地球環境の実現に貢献しSDGs達成を(3)
学校給食への有機農産物の利用が有機農業推進の打ち手
我がまちに有機農業を普及させる方法として、環境直払と同様に、すでに実績が積み重ねられているのが、有機農産物の学校給食への利用である。
学校給食への有機農産物の利用が、有機農業の普及につながる理由は以下のとおりである。
① 子どもたちが有機農産物に親しむことで、有機農産物と慣行農業による農産物との違いを体験することができる。
② 子どもたちが家に帰って、有機農産物を利用した給食の話を家族にすることで、さらに家族や、ひいては地域全体に有機農業への興味や理解が深まっていくことが期待できる。
③ 有機農家にとっても安定した供給先と収益が得られる。有機農家にとって最大の悩みは、販路の確保と有機農業に伴うコストの確保である。有機農業は、従来の化学肥料と農薬を使用する慣行農業に比べて手間がかかり、多くの場合、収量も減少する。よって、慣行農業より高い値付けで売らなくては、営農継続が困難になる。その点、学校給食への有機農産物の出荷では、政策的に、慣行農業より高値で買い取ってもらえる。
学校給食への有機農産物の利用は、徐々に増えてきている。農林水産省の2020年度における有機農業の推進状況調査(市町村対象)によると、123市町村が学校給食に有機食材を利用(全市町村の7%)と報告された(農林水産省「有機農業をめぐる事情」(2022年7月)37頁(https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf)。
最近の成功事例としてよくメディアにも取り上げられているのが、千葉県いすみ市の事例である。いすみ市では、2012年に行政と市民と農業者で「自然と共生する里づくり連絡協議会」を結成。稲作に使う農薬を減らす、若しくは使わないことによって、田んぼの生態系が復元される。そうすると、様々な生き物が復活し、これらの生き物を餌にするコウノトリがすみつくようになる。もう一度コウノトリがすみつく田んぼとするために、有機農業による稲作に取り組むことにしたという。2013年はうまくいかず、2014年にようやく栃木県のNPOの専門家の助力もあり、4トンの有機米が収穫できた。その後、2015年に「いすみ生物多様性戦略」を策定。同年には、1か月分の給食を有機米に転換できたそうである(「市立小・中学校で有機米100%のオーガニック給食を実施!千葉県いすみ市の挑戦とは」HugKum(小学館、2021年6月3日付け)(https://hugkum.sho.jp/191832)、「いすみオーガニック?何それ?」NPO法人いすみライフスタイル研究所(http://www.isumi-style.com/pdfs/isumi_organic.pdf))。
現在は、市内の13ある小中学校30校で有機米を100%使用。いすみ市では、「慣行栽培米との価格差を学校に補填し、市内全小中学校で2017年から有機栽培米100%の給食を実施している」(日本農業新聞2022年11月2日付け)とのことである。
先ほど述べた③の部分、有機農業生産によるコスト増を補填する仕組みである。
有機米以外にも、現在では、有機栽培の小松菜やニラ、タマネギなども提供しているとのこと。また、学校給食への有機農産物の利用をきっかけに、いすみ市では有機米の生産量が増えているという。学校給食への有機農産物の利用から、地域全体に有機農業が広がった事例といえよう。