2023.01.12 政策研究
第13回 政策(総合計画・総合計画条例)と議会・議員
計画や指標の隠蔽性、総合計画のジレンマと改定手続の必要性
総合計画の進捗管理については、実施計画で行う方法と、基本計画に明記している施策の成果指標の達成度を確認する方法がある(田中 2018a:24)。どちらの方法をとるにしても、計画や指標は、大くくりでつくるか、詳細につくるかで、市民への見え方は変わってくる。適度でない計画や指標は隠蔽性を持つことになる。あまりに大くくりでは内容が分からないし、あまりに詳細では内容把握に時間がかかるために見るのを諦めてしまうかもしれない。関係者には、この隠蔽性を克服するような計画や指標をつくることが期待される(田中 2018a:24)。そこには、市民参加の話し合いが必要となる。
また、総合計画は、内容の精緻性を希求することと、環境への変化対応性を希求することのジレンマを持つ。なぜなら、「精緻性」には「正確性」という良い面と「硬直性」という悪い面があり、「変化対応性」には「柔軟性」という良い面と「曖昧性(不正確性)」という悪い面があるからである。そのため、総合計画が長期的な計画であることから、このジレンマを克服できるような仕組みを組み込んだ計画内容とすることが求められる。さらに、大きな環境変化が生じた場合などに備え、具体的な改定手続をあらかじめ検討し、計画に位置付けておくことが必要である。
実効性ある総合計画の要諦、議会改革の目的
神原勝は、実効性ある総合計画の要諦は、誰にも分かる具体的な政策の明示であるという。そして、多治見市がモデルを示しているように、財源の裏付けある政策を記載した実施計画と、将来必要となる、あるいは財源を含む政策手段が整えば実施する政策からなる展望計画を基本に、事業実施個別シート(実行計画あるいは進行管理計画)によって管理し、それを政策情報として公表すること。もちろん策定と運用のプロセスにおいては、情報の公開と市民・職員の各種参加が組み込まれることが必要であるという(神原 2019:296)。
そして、総合計画がこのようであれば、自治体の政策は極めて具体的で一覧性に富んだものになるので、議会はその執行をめぐって行政監視が容易になる。また政策の議論も計画記載事業の継続・修正・廃止・新設をめぐって具体的になるので、議員ないし議会の政策提案を行いやすくなる。常任委員会の所管事務調査なども、計画記載事業を中心に行えば、議会の政策提言はより効果的になるといい、見方を変えれば、総合計画の手法を上述のように改革すれば、議会は予算編成権がなくても、実質的に政策と予算をコントロールできるし、国による思いつき政策やご都合主義の弊害も極力避けることができるという(神原 2019:296)。
さらに、議会による行政監視にせよ独自の政策提言にせよ、議会が機関として首長に対して厳しく批判的であることが、首長に対市民責任を全うさせる道を開く。議会改革の目的は議員と議会にのみ影響がとどまる内部改革ではない。議会が変わることによって、市民、首長、議員、職員が運営にかかわる自治体の実力が向上する改革でなければならない(神原 2019:298)ことを強調する。このことは、議会が変われば自治体は変わることを示している。議会の責任は重い。
なお、自治基本条例や議会基本条例の制定が、結果として市民サービスの向上にどうつながったのかが見えないという批判に応えることも必要となる。このような批判に対しては、自治基本条例や議会基本条例に基づく自治体改革や議会改革の成果が、市民サービスにどのようにつながるのかを、そしてどうつながったのかを可視化するツールとして総合計画の重要性を指摘することができる(田中 2015a:34-40)。総合計画は、自治基本条例や議会基本条例と市民をつなぎうる可能性を持つ。