2022.12.26 政策研究
第33回 競争性(その2):競争相手の設定
競争相手の選択
あまりにかけ離れたもの同士は競争にならないから、ある程度、「同類」の範囲を確定することが、競争性の前提である。連載第30回などで述べたように、多数性のある自治体を、そのまま全数比較する場合もあれば、比較の中から、相互に類似する集団を取り出すこともあろう。競争は、しばしば、同類集団の中で発生する。しかし、競争相手とされるべき同類集団は、あらかじめ確定されているとは限らない。Aは競争相手としてB、C、D、Eを選定する、という選択があろう。同様に、B、C、D、Eも、それぞれを競争相手と認定し、結局、A、B、C、D、Eでの競争性について、A、B、C、D、E間で合意がとれていることもあろう。しかし、そうなるとは限らない。Eは、A、B、C、Dと自分とは「格」違いであると考え、Eは遠くのH、I、Jを競争相手と認定しているかもしれないのである。
このように考えると、競争相手自体が、あるいは、競争するもの同士の集まりが、簡単に確定できるとは限らない。そもそも、制度的には自治体の競争相手が公定されているわけではない。あくまで競争性は、個々の自治体の営みの中で、自らの比較対照すべき競争相手を、どのように選定したかに依存する。その意味で、AがB、C、D、Eと競争するのは、あくまでAの心の内に存在するものにすぎず、B、C、D、Eがどのように考えているかは、全くどうでもよいことになる。競争性とは、ある自治体が政策決定をする際に、自らが差異を比較対照し、「順位」や「格」の上昇という方向で、自らの政策決定の動機付けに利用するときに、存在する。
競争相手の「客観」性と「主観」性
もっとも、主観的・裁量的に競争相手が選定できるのであれば、「必勝」方法は簡単である。自分より劣る団体を競争相手にすればよい。もっとも、そのような自己満足的競争によって、「勝利」を誇っても、すぐに化けの皮が剥がれる。自治体政権側が、都合の良い競争相手によって成果を喧伝(けんでん)しても、異論ある反対勢力が、別の競争相手と比較して、「惨敗」状況を喧伝することができるからである。
つまり、自治体間の競争とは別に、自治体内での政権側・与党側・弁明側と野党側・批判側・挑戦側の政策競争が存在する。自治体内での競争がある限り、どちらの競争相手の選定が妥当であるかの競争が生じてしまう。批判側の提示する競争相手が妥当性を持てば、政権側の「勝利」の喧伝は、全く効果がない。要するに、為政者のご都合主義で競争相手を取捨選択することには限界がある。
そのため、ある程度は、競争相手に関する合意が自治体内で形成される必要がある。競争は、競争相手に関する共通了解が存在しなければ、競争にならないからである。その場合、関係者が合意しやすいのは、外在的に所与であるかのように見える競争相手の集団である。すでに述べた「類似団体」は、こうした競争相手の一つのくくり方である。「類似団体」は、人口や社会経済状態という客観的指標に基づき、国という第三者が設定するものであり、自治体間でも自治体内でも、異論を提示することはできないからである。
このほかに、自治体の制度的類型が重要である。市区町村と都道府県は、通常は競争相手ではない。市町村はあくまで市町村と競争する。全国の市町村別ランキングや都道府県別ランキングは存在する。しばしば、下位の「順位」となった知事が反発する現象も起きるぐらいである。とはいえ、市町村はあまりに多数であまりに多様なので、上記のとおり「類似団体」に限定することもあろう。また、政令指定都市は政令指定都市と、中核市は中核市と、特別区は特別区と、それぞれ競争する。同一都道府県内市町村という競争相手のくくり方も有力である。さらに、県内市と県内町村を分けることもある。また、県内で圏域・地区・方面ごとに市町村がグループ化されることもある。こうした近隣の競争相手もあろう。
もっとも、こうした制度的な競争相手の設定ではなく、社会経済の実態から大まかにくくられることもあろう。例えば、大都市圏近郊市とか、東京対大阪・横浜対神戸・川崎対尼崎のような首都圏・関西圏の比較対照都市とか、○○線沿線市とか、地方中核都市とか、県庁所在市とか、「札仙広福」のような地方ブロック中核的な中堅政令指定都市、さらにはその後の新参政令指定都市など、いろいろに競争相手が選ばれてくる。
このあたりになると、社会経済文化政治の「客観」的実態というよりは、かなり裁量的な競争相手のイメージになろう。例えば、「大阪都構想」は、いわば、大阪府市が東京都を競争相手と考えていることに由来するが、東京側は全く大阪府市を競争相手とは考えていない。東京都は「主観」的には、「世界都市」気分でニューヨーク、ロンドン、パリなどを競争相手に考えている。もっとも、東京の実際の競争相手は、例えば、リオデジャネイロ、マドリード、イスタンブールなどである(1)。