2022.12.26 議会改革
第34回 議員定数の問題にどう臨むか
(7) 前掲注(4)伊藤・丹羽のほか、河村和徳「議員定数削減に関する計量分析」法学政治学論究29号(1996年)391~413頁など。
(8) その典型的なものが、議員の数を少なくする一方で議員報酬を高くして専門職化を図るという議論や、議員の数を多くする代わりに議員報酬を引き下げるという議論などであるが、その場合には、議会の活動や機能のあり方との関係についてもしっかりと検討される必要があるだろう。
(9) 自治体議会の選挙の規定は、1950年の公職選挙法の制定に伴い、地方自治法から公職選挙法に移されたが、その際に自治体議会議員の定数の全員について行う選挙に関しては「一般選挙」に名称が改められ、議員の定数の変更についても、原則として一般選挙の場合でなければ行うことができないものとされた。
(10) 解任の規定は、議員の定数に異動を生じたために議員の解任を必要とするときは、市町村長がくじで解任すべき議員を定めるなどとするものであった。経緯については、自治大学校研究部監修・地方自治研究資料センター編『戦後自治史 第三巻』(文生書院、1977年)197~198頁参照。
(11) 政府の地方行政調査委員会議は、1951年の「行政事務再配分に関する第二次勧告」で、再配分後の事務の合理的能率的な執行を確保するため、執行機関・議決機関を通じて、その組織を簡素化し、併せて経費の節減を図ることを大前提とし、議会が十分に住民の意思を行政に反映する機能を確保しつつ同時に能率的な運営を期するために、議員の定数を減少することが適当として、府県議会おおむね30人以上60人以内、大都市議会おおむね30人以上50人以内、市議会おおむね20人以上30人以内、町村議会おおむね8人以上20人以内としていた。
(12) このほか、法案では、議会で党派が完全に二分されることとなった場合に議長を出した党派が不利になる弊害を避けるため、法律の定数の基準を奇数とすること、議員定数を定める場合には、最少の経費で最大の効果をあげるとともに組織・運営の合理化の観点からそれについて定める2条9項・10項(現14項・15項)の規定の趣旨に適合するようにすること、議員定数の条例を定める場合には、議会の常任委員会又は特別委員会においてあらかじめ公聴会を開き、住民の意見を広く聴かなければならないことなども規定されていた。
(13) 自治省の資料については、田中政彦「地方議会の定数」西尾勝=岩崎忠夫編『地方政治と議会』(ぎょうせい、1993年)662頁に掲載されたものによる。
(14) このようなことから、1998年10月1日現在の定数が改正後の法定上限を超える市町村は、市区が48団体、町村が61団体という状況であった。
(15) なお、議員定数に影響を与える要素として、常任委員会の数や選任方法などもあったが、委員会に関する地方自治法の規定については、2000年の改正で、都道府県・市町村と人口の区分による常任委員会設置数の上限が廃止され、2006年の改正では、議員は「それぞれ一箇の常任委員となる」が「少なくとも一の常任委員となる」に改められ、さらに2012年の改正では、選任方法や在任期間に関する規定が削除され、条例に委ねられることとなり、制度的に議員定数を規定する要素ではなくなった。
(16) 従来においては、郡市の区域を選挙区としていたが、市町村合併の進行により郡の存在意義が低下したことなどから、2013年の公職選挙法の改正により変更されたものである。
(17) これは、強制合区などと呼ばれるが、合区は、一の市の区域の人口が議員1人当たりの人口の半数以上であっても、議員1人当たりの人口に達しない場合に、隣接する他の市町村の区域と合わせて一選挙区とするときにも認められている(任意合区)。なお、一の市町村の区域(指定都市においては区の区域)が二以上の衆議院選挙の小選挙区の区域に分かれている場合には、その区域を市町村の区域とみなすことなども認められており、指定都市の場合における市の区域は、その指定都市の区域を二以上の区域に分けた区域とされている。
(18) 1994年の改正により7項から8項とされたもので、それより前に行われた選挙に関する判決では15条7項と引用されているが、本稿ではその場合も含め15条8項と表記している。また、後述の271条の特例選挙区についても、2013年の改正前は、271条2項で規定されていたものが、同年の改正により1項が削られ、271条とされたものである。同年の改正前に行われた選挙に関する判決では271条2項と引用されているが、本稿ではその場合も含め271条と表記している。
(19) なお、最高裁は、投票価値の平等の要請の根拠として、国会議員の選挙に関してではあるが、法の下の平等(平等原則)を定める14条1項のほか、選挙権に関する15条1項・3項なども挙げている。
(20) その趣旨について、黒瀬敏文=笠置隆範『逐条解説 公職選挙法〈改訂版〉 上』(ぎょうせい、2021年)152~153頁は、人口の都市集中化の傾向に伴う郡部の人口の減少、都市部での昼間人口の増加と常住人口の減少、周辺部人口のそれとは逆の状況など常住住民と自治体の行政需要とが必ずしも対応する形とならない事例が相当数生じてきたことを背景に、都道府県行政の役割が補完行政・広域行政の推進にあることを考慮すると、従来どおり各選挙区間の定数配分を機械的に人口に比例して行ったのでは必ずしも都道府県行政の円滑な推進を期せられない場合も予想されるとし、人口比例の原則に特例を設け、それぞれの地域の代表をそれぞれの地域の実情に応じて確保し、均衡のとれた配分をすることができる途(みち)を開こうとするものとしている。
(21) 最高裁も、後述の東京都議会選挙昭和62年判決において、このような制度の下では、各選挙区に最低1人の定数を配分する関係上、定数が1人で人口が最も少ない選挙区と他の選挙区とを比較した場合、それぞれの議員1人当たりの人口に1対3程度の較差が生ずることがありうるが、それは公職選挙法の選挙区割りに関する規定に由来するものであって、それをもって同法15条8項の規定に違反するものということはできないとする。自治体議会の場合には、公職選挙法の規定により、国会の場合と比べて、裁量の幅が限定されると解する余地もありうるところ、現実には、同法15条8項や271条だけでなく、選挙区の設定に関する規定も、投票価値の平等の要請に対する緩衝材となっている可能性がある。
(22) なお、後述の東京都議会選挙平成27年判決と千葉県議会選挙平成28年判決では、「あるいは」として、「較差は〔一般的に合理性を有するものとは考えられない〕程度に達していないが、〔条例〕の制定時若しくは改正時において〔15条8項〕ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており、又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたとき」(〔 〕は筆者において置き換えて補充)が、それに追加されていることにも留意が必要である。
(23) なお、衆議院選挙に関する最大判平成27年11月25日民集69巻7号2035頁は、衆議院議員の選挙における投票価値の較差の問題については、これまで、①定数配分又は選挙区割りが諸事情を総合的に考慮した上で投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているか否か、②そのような状態に至っている場合に、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っているか否か、③当該規定が憲法の規定に違反するに至っている場合に、選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきているとしているが、都道府県議会議員選挙の場合にも事情判決の法理を用いることを認めていることからすると、3段階で審査を行っていると見ることもできる。
(24) なお、人口比定数については、最高裁は、後述の名古屋市議会選挙平成8年判決において、人口比定数による較差を述べる中で、「人口比例原則に則った最大剰余法による定数配分を前提とすると」と述べており、最大剰余法によるものが想定されているようであるが、最大剰余法は、議員1人当たりの人口を用い、簡明な方法ではあるものの、人口比例配分方式の一つにすぎないことにも留意が必要だろう。
(25) 本文で挙げたもののほか、最高裁判決としては、岡山県議会選挙(特例選挙区3.46倍・それ以外2.83倍)に関する最判平成元年12月21日裁判集民158号695頁、大阪府議会選挙をめぐる較差2.48倍に関する最判平成11年11月9日判例集未登載と較差2.58倍で任意合区に関する最判平成16年1月16日判例集未登載、新潟県議会選挙(2.21倍)に関する最判平成24年11月8日判例集未登載があり、いずれも適法判決となっている。
(26) なお、東京都議会選挙の島部の特例選挙区について、平成31年判決は、島しょ部が、離島として、その自然環境や社会、経済の状況が東京都の他の地域と大きく異なり、特有の行政需要を有することから、東京都の行政施策の遂行上、島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方、その地理的状況から、他の市町村の区域との合区が、地続きの場合に比して相当に困難であることなどが考慮されてきたものということができ、本件選挙当時の島部選挙区の配当基数(0.249)は、東京都議会において特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえないとしている。また、令和4年判決では、島部選挙区の配当基数0.221についても同様の判断を示している。
(27) 国勢調査は、国内の人及び世帯の実態を把握し、各種行政施策その他の基礎資料を得ることを目的に、統計法に定める「基幹統計調査」として実施されているが、その調査対象は、本邦内に常住している者について行われ、「常住している者」とは当該住居に3か月以上にわたって住んでいるか、又は住むことになっている者をいい、本邦内に常住している者は、外国人を含めてすべて調査の対象となる。ただし、外国政府の外交使節団・領事機関の構成員・随員やその家族、外国軍隊の軍人・軍属やその家族は対象外とされている。なお、国勢調査は10年ごとに行われるものとされるが、この本調査を行った年から5年目に当たる年に簡易な方法による国勢調査(簡易調査)が行われることになっている。
(28) 例えば、ドイツ連邦選挙法は、3条1項で、選挙区の区画に際しての原則として、外国人は人口の調査においては考慮しないと規定している。
(29) 最高裁は、特例選挙区についても、愛知県議会選挙平成5年判決などで、社会の急激な工業化、産業化に伴い、農村部から都市部への人口の急激な変動が現れ始めた状況に対応したものとした上で、郡市が、歴史的にも、政治的、経済的、社会的にも独自の実体を有し、一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、この地域的まとまりを尊重し、これを構成する住民の意思を都道府県政に反映させることが、市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、そのための地域代表を確保することが必要とされる場合があるという趣旨の下に規定されたものとし、特例選挙区設置の場合の考慮要素の一つとして、都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表確保の必要性の有無・程度を挙げている。そこでは、地域代表の確保を考慮要素として挙げるだけでなく、そのことに絡んで、都道府県の補完行政に言及していることが注目される。
(30) このほか、東京都議会選挙平成31年判決において、林景一裁判官は、その意見の中で、国政選挙については人口比例原則を厳格に考えるべきであるが、地方議会選挙については同原則を重視しつつも一定程度緩和する余地を認めることができると考えるとした上で、このような相違は、地方議会議員の役割の性格、すなわち、地方公共団体においては、地方自治の本旨に基づく住民自治の観点に立った行政の遂行が期待されるところであるから、地方議会議員については、国会議員が全国民(people)の代表としての行動を期待されるのとは異なり、その選挙区である地域(community)の代表という色合いが濃くてしかるべきであることをその根拠とするものであると述べる。