2022.12.26 議会改革
第34回 議員定数の問題にどう臨むか
そもそも、定数較差の問題については、投票価値(選挙権)の平等が問われているものであることからすると、本来的には選挙人数(有権者数)が用いられるべきとの議論もある。この点、最高裁は、衆議院選挙昭和51年判決で、定数配分の決定において各選挙区の選挙人数又は人口数と配分議員定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるべきと述べる中で、「厳密には選挙人数を基準とすべきものと考えられるけれども、選挙人数と人口数とはおおむね比例するとみてよいから、人口数を基準とすることも許される」と述べていたが、人口を用いるか選挙人数を用いるかで結果が異なることもあり、また、裁判所は、選挙当日の選挙人数による較差により判断する傾向を強めてきている。
ただ、定数配分や区割りについては、安定的かつ確実な国勢調査人口によることにも合理性があり、諸外国でも人口を用いるところも少なくないほか、国会議員については全国民の代表とされており、有権者だけでなく未成年者も代表するものであるから日本国民人口を用いるのが妥当だとの議論もある。
自治体議会議員の代表としての性格については、国会議員が全国民の代表と憲法で規定されているのに対し、その代表としての位置付け・性格に関する規定は、憲法や法律にはなく、共通の理解を欠いていることについては、この連載でも何度か触れた。
全国民の代表とされる衆議院議員・参議院議員についても、選挙区で選挙される場合には、事実上、選挙区や地域の代表の意味をもつことは否めないが、自治体議会議員については、住民全体の代表と地域の代表の両者が論じられ、とりわけ都道府県議会議員については、選挙区となる地域住民の代表ということがしばしば強調される。選挙区の有権者は議員を選挙するだけでなく、選出された議員を最終的には投票により解職することができることもその理由の一つとして挙げられることもある。最高裁も、千葉県議会選挙平成元年判決などで、特例選挙区の規定の趣旨を述べた上で(29)、都道府県議会議員の選挙区制については、歴史的に形成され存在してきた地域的まとまりを尊重し、その意向を都道府県政に反映させる方が長期的展望に立った均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、そのための地域代表を確保する必要があるという趣旨を含むものと解されると述べている(30)。
しかしながら、選挙区で選出することが実際上のその選挙区の代表としての意味をもち、それが制度的にも何らかの意義をもちうるとしても、理論的・法的に地域代表としての性格をもつものではなく、解職制度の存在についても、それが直ちに地域代表に結び付くものではない。都道府県議会については、その都道府県内のそれぞれの地域的な利害や関心を都道府県政に反映させる役割も担っているとはいえるが、その役割は当該地域から選出される議員だけが担っているわけではない。
ただ、そうはいっても、なお、有権者が自分たちの代表を選び、その声を選ばれた議員が代弁するということを全く否定してしまうというのは妥当とはいえず、また、選挙区についても、行政区画、地域的な一体性、議員へのアクセスの機会の確保などの要素の考慮も避けて通れないようにも思われる。全国民や住民全体の代表という場合でも、議院全体や議会全体として全国民や住民全体を代表するようになっていればよいのであって、議員としての姿勢や建前はともかく、個々の議員が全国民や住民全体の代表としての性格や位置付けをもつとまでする必要はないとの議論もある。
代表と選挙をめぐる議論は、どうしてもスッパリと割り切れないところがあり、そのような中で考えを重ねていくほかない。
(1) 以上の数値については、国立国会図書館調査及び立法考査局調査報告書「OECD加盟国議会における議員定数と人口」(2021年)による。なお、議員定数、人口に関するデータの時点が異なるものもある。
(2) 例えば、アメリカのシティの議会の議員数は、通常、5~6人、大都市でも10人前後のことが多いといわれる。これに対しては、大森彌『自治体議員入門』(第一法規、2021年)98~99頁は、アメリカの市では、市長や議員以外に、教育委員、財務局長、法務局長、総務局長、郡警察署長をはじめ多くの役職者が選挙で選ばれており、消防、上水道、土壌保全、高速道路の建設・維持、公園等の建設・運営、図書館・病院の設置、ごみの収集・処理などで特別区(special district)が設置され、その理事が公選であることなどの違いを指摘する。
(3) 例えば、人口差の大きい市町村議会で見ると、2022年11月現在(人口は推計人口)で、東京都青ヶ島村の議員1人当たりの人口が28.7人であるのに対し、横浜市は4万3,865.4人であり、両者を比較することにはほとんど意味はないといえる。
(4) 地方自治法で法定議員定数等が規定されていた際には人口による区分が採用されていたのであり、また、議員定数と人口との間には強い相関関係があるとか、議員の削減状況と最も関係が深い要因は人口規模などといった分析もある。後者については、比較的最近のものとして、伊藤哲也「財政及び人口の観点からみた市区町村の議員定数の決定要因」自治体学33巻1号(2019年)50~55頁、丹波功「地方議会における議員定数の動向」近畿大学法学55巻2号(2007年)65~93頁など。なお、丹波は、議員1人当たりの人口が少ない自治体の方が、議員定数が削減されている傾向があり、これについては小規模な自治体ほど議員の数につき過剰感が生じやすいことの影響が指摘されている。
(5) 例えば、国会について見ると、1947年においては人口7,810万1,000人に対し衆議院議員の定数は466人、参議院250人であり、衆議院では定数較差の拡大などに対処するため512人まで増え、また、参議院は沖縄復帰により252人となったこともあったが、最も国勢調査人口が多かった2010年においては、人口1億2,805万7,352人に対し衆議院議員480人、参議院議員242人であり、2020年においては人口1億2,374万3,639人に対し衆議院議員465人、参議院議員248人となっている。
(6) 自治体の規模が大きくなればなるほど、議会比率は小さくなる傾向が見られる。例えば、全国町村議会議長会「第67回町村議会実態調査結果(令和3年7月1日現在)」(以下「第67回町村議会実態調査」という)によれば、令和3年度当初予算額の1町村当たりの議会費の全国平均は79,748千円、一般会計歳出総額7,097,273千円に占める割合は1.1%であった。市議会では0.5~1%程度となっていることが多いようだが、指定都市では0.3%前後となっている。そのようなことなどから、肥大化等の批判を背景とする行政改革と一緒に論じることに対して疑問を呈する向きもある。