2022.12.13 政策研究
第12回 政策(自治基本条例)と機能・意志・目的・活用法
自治基本条例を支える人材:併任辞令の活用・NPO等の活用
大森彌がいうように、議会が条例の企画・立案の作業を進めるためには、その補助をする事務局職員が必要である。(しかし、必要な事務局職員が不足する場合には、〔( )内は筆者追記〕)便法措置として、一定期間その作業に従事する職員を首長と議長双方から辞令を出す併任人事を行うことが考えられる。飯田市で自治基本条例を議会が企画・立案した際には、この併任方式がとられ効果を発揮したという(大森 2021:198)。また、三田市議会基本条例23条は、「議会は、議会及び議員の政策立案能力を高めるため、議会事務局の法務及び財務など市政に関する調査機能の強化に努めるものとする」(1項)、「議長は、議会運営に加え、議会の政策立案等に資する職員を議会事務局の職員として出向させるよう市長に要請するものとする」(2項)、「市長は、議長から前項の規定による要請を受けたときは、誠実に応じなければならない」(3項)と規定している。そして、野口暢子によれば、議長から市長に対し、議会の出向要請が行われているという(野口 2016:92)。
また、市民とのワークショップでは、ファシリテートや資料作成において、先駆自治体の議員・職員、NPO、営利企業、学識者などの協力を得ることもありうる。しかし、当該議会の主体性がなくてはならない。特に、NPOや営利企業に依頼する場合には、その構成員の中で誰が担当するのかを確認し、その担当者が必要な能力を持っているかを見分ける能力が議会には必要となる。そのためには、様々なネットワークを活用して能力のある協力者を見つけることも大切である。熱心な協力者と劣悪な協力者(=非協力者)では、成果は雲泥の差となる。
結び
行き過ぎた行政改革や災害対応に追われ、自治基本条例が未制定の自治体においても、機を見てその制定に取り組むことが望ましい。そして、自治基本条例は、自治基本条例を既に制定している自治体でも、新たに自治基本条例を制定する自治体でも、市民のための「生ける自治基本条例」(=総合型自治基本条例=自治基本条例+関連条例)として、その活用が図られることが期待されている。
また、自治基本条例の制定自治体においては、目標が自治基本条例の実装へと動いている。実装のためには、行政が評価・見直しを行うだけではなく、本稿で見たように議会が自治基本条例を活用し、評価・見直しを行うことが大切である。そのことは、自治基本条例の機能を適正に発揮することでもある。未制定の自治体においては、議会が主導的に制定に取り組むことである。参照できる条例と理論はそろっている。
もちろん、そのときには、「離見の見」(りけんのけん:自分を離れ他者(市民・行政)の立場で自分の姿を見ること、自分の姿を左右前後(市民・行政)からよく見なければならないということ)を忘れてはならない。自治体の憲法ともいえる自治基本条例をつくり・生かすのは、市民・議員・行政である。市民・行政と切磋琢磨(せっさたくま)する議会に期待したい。自治体の規範は、自治体の最高規範としての自治基本条例に集約される。自治基本条例の規定と運用を見れば、その自治体の考え方、規範水準、組織(議会・行政)体質及び効率が分かる。
■参考文献
◇阿部昌樹(2019)『自治基本条例─法による集合的アイデンティティの構築』木鐸社
◇飯田市議会ホームページ「飯田市自治基本条例のあらまし」(https://www.city.iida.lg.jp/site/assembly/jitikihonn01.html〔2022年11月19日確認〕)
◇飯田市議会ホームページ「わがまちの“憲法”を考える市民会議記録」(https://www.city.iida.lg.jp/site/assembly/list191-576.html〔2022年11月19日確認〕)
◇大森彌(2021)『自治体議員入門』第一法規
◇神原勝(2019)『議会が変われば自治体が変わる【神原勝・議会改革論集】』公人の友社
◇公共政策研究所ホームページ「全国の自治基本条例一覧(更新日:2022年4月1日)」(http://koukyou-seisaku.com/policy3.html〔2022年11月25日確認〕)
◇新藤宗幸(2019)『官僚制と公文書─改竄、捏造、忖度の背景』筑摩書房
◇田中富雄(2014)「自治基本条例の成立と展開」龍谷大学大学院博士学位申請論文
◇土山希美枝(2019)『質問力で高める議員力・議会力』中央文化社
◇ニセコ町ホームページ「ニセコ町まちづくり基本条例の構造図」(https://www.town.niseko.lg.jp/resources/output/contents/file/release/869/7937/kozozu.pdf〔2022年11月24日確認〕)
◇野口暢子(2016)「深化する『議会への住民参加』─兵庫県三田市議会の議会改革のプロセス」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編『議会改革白書2016年版』生活社、91~94頁
◇廣瀬克哉(2017)「松下圭一の『基本条例』論と議会基本条例10年の展開」法学志林vol.114-3、115~141頁