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2022.11.26 政策研究

第32回 競争性(その1):競争性の基盤

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発注という競争

 自治体は、強制的に税金を徴収し、それによって予算支出をすることができるから、民間企業のように市場競争によって製品・サービスを売ることで稼いでいるわけではない。その意味では、競争と無縁の資金調達と事業活動である。公債・借金については、民間資金市場から調達するという意味では、金利・債券価格の競争に巻き込まれているとはいえるが、歳入の範囲で歳出を賄えばよいだけの話である。赤字財政は競争性を意図せざる形で招き、しかも、財務体質が悪ければ悪いほど高金利を迫られるであろう。しかし、自治体は収支均衡原則であり、競争性は内在的には埋め込まれていない。
 とはいえ、自治体が財源を利用して行政活動をするときには、しばしば、競争市場を通じて民間事業者から財貨・役務(サービス)を購入する。しばしば、調達と呼ばれることもあるが、発注と呼ばれることもある。調達は、どちらかというと、行政が直接に現物給付をするときに、現物の生産のために生産要素を購入することを意味する。発注とは、行政が直接に現物を生産して給付をするのではなく、民間事業者による現物生産を購入して、人々に現物給付を実現する。例えば、道路機能という現物給付について、行政が直営で工事をすることは理屈では考えられる。その際、物資や人足を調達する必要はあるが、道路機能というサービスは行政による現物給付である。しかし、通常は、行政は道路工事を事業者に発注し、請負事業者から工事役務を購入し、完成した道路を受け取り、その結果としての道路機能を人々に対して現物給付する。さらにいえば、道路工事終了後の道路管理までも全体として民間事業者に発注することも、理屈の上では可能である。
 自治体が発注・購入するときには、一般競争入札が原則である。このように、競争性が規範として埋め込まれている。また、価格競争だけではなく、様々な要素で事業者を競争させて、最善の発注を行うためには、プロポーザル(提案競技)方式が導入される。これは、一般競争入札ではないとしても、競争性に期待した仕組みである。
 ただ、現実の自治実践においては、指名競争入札や随意契約のように、競争性の制限は広く見られる。自治体としては、自治体資金が域外事業者に流出するよりは、地元経済振興の観点からも、地元事業者を優先したい思惑もあり、単純な競争性のみが追求されるわけではない。むしろ、競争性よりも、地元経済振興・雇用維持などの公益性(又は既得権益擁護の私益性)が前面に出る。こうして、地元の業界秩序を維持することが、行政の施策目的になる。このほかにも、発注を通じて、暴力団(反社会的勢力)の排除、環境保全の推進、差別防止、雇用条件の確保など、様々な政策目的を追加することも多い。
 そして、事業者側も地元業界秩序を維持し、多くの事業者がそれなりにニッチな存続ができるように、談合による競争制限を仕切ってきた。行政側がこうした談合を進める官製談合も存在した。こうした競争制限が、行政側あるいは納税者にとって、必ずしも不利になるとは限らなかった。一定の事業者に継続的に仕事を回すことで、行政としては、その後に生じた様々な事態への対応を事業者に柔軟に求めることもあった。また、地域経済の規模にもよるが、ときには自治体が最大の発注者(購入者・需要者)である場合には、巨大な買い手である官公需は大きな力を持つのであって、事業者側が談合で競争制限をしても、行政に不利になるとは限らない。

小括

 自治体には、選挙・任用・発注などで競争性は埋め込まれている。また、地方自治法制に規範化された戦後自治制度おいても、競争性が正当な物語であった。とはいえ、選挙・任用・発注のいずれにおいても、戦後日本の自治実践では競争性への制限も強く作用していたといえよう。こうした競争制限が、文字どおり批判され、特に、任用と発注において弱体化していったのが、1990年代以降であろう。それは、世界経済のグローバル競争の激化を背景に、新自由主義(ネオリベラリズム)的な行政・政府の運営が目指させるようになった行政改革・構造改革が進展したことによる。
 このような中で、自治体を競争性の観点から捉えることは、自然な見方になった。もちろん、1990年代以降は、ボランティア・NPOの拡大や、東西冷戦の終結、気候変動・温暖化のように地球的な協調対応を求める潮流も強まっている。その意味で、競争性が世界を覆い尽くしているわけでは全くない。しかし、競争性が称揚されていることもまた、否定できない潮流なのである。そして、もともと競争性になじみのある、そして競争の現実の勝者である、政治家、幹部行政職員、民間経営者(経済人・財界人)が、自分たちの当然の「常識」である、又は、限られた経験に基づく「狭量」な世界観に基づいて、競争性を自治体に求めることがありうることは、自然な作用である。

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