2022.11.26 政策研究
第32回 競争性(その1):競争性の基盤
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
はじめに
資本主義市場経済やグローバリズム(地球主義)の流れが20世紀末より強化され、21世紀になって、ますますその傾向が強まっている。このような中では、企業も個人も地球規模での激しい市場競争にさらされる、というような発想が行き渡っている。競争の中では優勝劣敗又は適者生存の弱肉強食が展開され、自らの生き残りをかけて奮闘しなければならない。時代や技術革新(イノベーション)や、市場の需要に応えられないものは、淘汰されてしまう、というわけである。
地域社会経済や自治体にとっても同様であり、資本主義市場経済・地球主義の中で、地域経済が適応できなければ、敗者として衰退・消滅を免れないということになる。また、地域経済振興や地域社会/住民の福祉の増大を目指す自治体も、そうした競争にさらされる中で、生き残りを図らなければならない、というわけである。
もちろん、現在の世界が、このような「競争世界観」に全面的に彩られているわけではない。強者は競争にさらされずに結託して、弱者のみが蟻(あり)地獄のような競争を強いられているともいえよう。さらにいえば、私的民間部門である市場経済は、自己利益の追求と競争が中心的な論理であるとしても、むしろ、公的政府部門である自治体行政は、それとは正反対の地域公益追求と議論・熟議・合意が中心的な論理であると、あえて対置する「協調(協創)世界観」もあるだろう。
とはいえ、地域間や、地域利益に責任を持つ自治体間で、相互に競争をしているような見方は、充分に根深いものである。そもそも、公的政府部門・自治体行政の中にも、競争の論理が埋め込まれている。現代の自治体も、真空の中に存在しているのではなく、世の中を覆う競争の論理の中で生息しており、そうした環境要因の影響を受けて、競争性を内在化させているのである。このことは、競争では果たせない目的を目指すことが自治体行政の役割であるならば、そうした非競争性を追求する役割を内面から制約・阻害するものといえよう。