2022.11.10 議会運営
第86回 表決における白票の取扱いについて
(2)高松高裁判決説
(ア)の法116条における出席議員とは、高松高判昭和28.9.25のとおり、棄権した議員、白票を投じた議員、議長及び法117条の除斥議員を除いた採決の際、議場にある議員をいう。
○村編入処分取消請求控訴事件(高松高判昭和28.9.25)
普通地方公共団体の議会の議事は、可であるか、否であるかによって議決せらるべきものである。従って可の表決或は否の表決についてそれぞれ条件を附したり、又可否何れの意思をも表明しない所謂白票の表決は、許されないものと謂わねばならない。
それだからこのような条件附表決或は白票の表決は、結局その表決権者の意思が不明であるから、可否何れにも属しないものとして、それぞれ無効の表決であると認めざるを得ない。
白票は、結局は原状を変更しない意思がうかがわれるから、否と同視し有効だとする見解もあるが、白票は種々の政治的理由により行われるものであるから、一概に白票を投じた議員の意思を、このように推測することは、妥当なる見解とは思われないので、その説に左袒することはできない。
次に地方自治法第116条第1項に「出席議員」とは、採決の際議場にいる議員にして、当該事件につき適法な表決権を有する者であって、しかも表決に加わらなかった棄権者及び無効投票をした者を除いた、その他の表決権者を云う。即ち適法な表決権を有する者のうち、有効な可否の表決をした者であると解する。
右の採決の議場に在る議員にして、当該事案につき適法な表決権を有する者であることについては、論議の余地はないが、問題はこれ等の者のうち棄権者及び無効投票者が出席議員に当るか否かの点にある。
前記法条の「普通地方公共団体の議会の議事は、出席議員の過半数でこれを決し」とは、謂うまでもなく多数決の原則を規定しているものである。従ってここに「議事」とは、ことの性質上比較的多数で決せられる選挙は含まれないので、必ずその表決は可か否かの一途で決せられる場合に限られる議案である。
それだから通常は表決の結果、可か否か何れかが多数つまり過半数になるときと、可と否とが同数になるときの二者の場合に限られるのである。而して同法条も右の場合を予測して定められたものと解せられる。
ところが現実の表決に当っては、議場に在って表決権を有するに拘らず、棄権した者又は条件附表決や白票による表決等無効の表決をした者も存することがあり得る。
この様なことは、同法条の予測せざるところで、同法条に違反する表決であると謂わねばならない。
然らば斯る棄権や無効の表決があった場合は、議会の議決は全体として無効となるかどうかについては、にわかに判断することはできない。
議員は議会に出席し、又議席に現存する議員が表決に加わるべきであることは、特別の規定をまたずして、議員の当然の職責である。徳島県議会会議規則の第65条の規定は、その当然のことを規定したに過ぎない。而して議員が有効な表決を為すべき職責あることも当然としなければならない。
然しながらこれらの規定職責に違反した場合においても、有効の可・否の表決権が自治法第113条の定足数に達する限りはその議決は無効とはならないものと解する。
而して有効な可否の表決数が定足数に達する限りは、その有効の可否の表決数の過半数を以って決し、可否同数のときは、議長の決するところによる、と解することが妥当な見解と認める。ところが控訴人等は「出席議員」とは、議場に在って表決権を有する限り、棄権者も白票等の無効の表決をした者も、すべてその中に包含されると主張するので、この見解について検討する。
此の見解はおそらく「出席議員の過半数」という法文に多く根拠があるように思われるが、その文言は棄権者や無効投票者まで予測して、議案を可決する場合は、此等をも加算したその過半数の可の表決者を必要とするものとしたのではなく、寧ろ此のようなことは同法案の規定の予測せざる違法の表決であって、同法案は前記のように多数決の原則を規定したものであり、即ち可否二途の場合その多数はその可否の合計数の過半数であるから、その表現として「出席議員の過半数」と規定したものと解すべきものである。
若し控訴人等の見解に従う場合は、次のような不合理の結果となる場合がある。
即ち、これを本件について考えると、可票18票、否票16票、白票2票であるから、可票は36票の過半数19票に達しない。又可否の票が同数でもないから、(白票は否と見ないこと前説明のとおり)議長の決裁権も行われない。その結果は可決でも否決でもない状態になり、事実上は否決と同じ結果となるのである。ところが可票の内2票が白票に廻ると、可票16票、否票16票、白票4票となって、可否同数となるから議長の決裁権が行使せられ、その裁決の結果は可となる場合もあり得る。然らば可票が2票減じて、却って可決の結果となる。これは極めて不合理であること自明である。
而してこのように白票のある場合には、可否同数とは言えない。同条の可否同数とは、出席議員の半数づつの可否同数の場合に限ると解する見解もあるが、この見解によると苟も棄権者や白票の表決者が1人でも在るときは、可否同数はあり得ないから、議長の決裁権は行われない。そうして白票等の存在は、開票の結果判明するものである。然るに同法条の第2項によると、議長は議員としての議決権は有しないのであるから、結局議長は、議決権も決裁権も何れも行使できないこれ亦不合理な結果に陥ることとなる。
然らば控訴人等の所論は理由がないものと謂わねばならない。
そうすると、本件においては、可否の数は、34票でその過半数である18票が可決の表決をしたのであるから、本件の議案は適法に議決せられたものと認められる。
次に、(イ)の法116条1項における議長裁決権を行使する際の前提となる「可否同数」とは、棄権や白票、白票以外の無効票の有無にかかわらず、可否の表決数の合計が法113条の定足数に達している状況において、可決と否決が同数である場合をいい、その場合において議長が適法に裁決権を行使することができる。
(ウ)の表決に当たり棄権や白票が多数ある場合に、法113条における議員定数の半数以上の議員の出席を要件とする定足数については、法113条における出席議員とは可否を表明した議員のみを指し、議長及び法117条ただし書に該当するが議会の同意を得て会議に出席している除斥議員、白票を投じた議員、棄権した議員を含まないため、可否の表決数の合計が法113条の定足数である議員定数の半数以上を満たす必要がある。
(3)長野士郎説
(ア)の法116条1項における出席議員とは、(1)の行政実例説と同様、採決の際、議場にある議員で当該事件につき適法に表決権を有する議員をいい、議長及び法117条の規定により議会の同意を得て会議に出席している議員は出席議員に含まれない。
(イ)の法116条1項における議長裁決権を行使する際の前提となる「可否同数」とは、棄権、白票が全く生じていない状況において可否それぞれが出席議員の半数ずつある場合をいい、その場合において議長は適法に裁決権を行使することができる。
(ウ)の表決に当たり棄権や白票が多数ある場合に、法113条における議員定数の半数以上の議員の出席を要件とする定足数については、棄権又は白票がある場合において議長は裁決権を行使することができないとしていることから、白票を投じる者及び棄権者が全くいない状況で、法117条ただし書における議会の同意により会議に出席している除斥議員を除くが、議長を含んだ出席議員数が議員定数の半数以上存在する状況をいう。
どの説を採用するかは各議会の判断に委ねられるが、(1)の行政実例説によれば、設問については白票を除いた可決と否決が同数の場合に、議長裁決権の行使が可能との考えであるので、議長裁決権を行使することができる。(2)の高松高裁判決説の場合は、可否の票数が議員定数の半数未満であるため、議長裁決権は行使することができない。(3)の長野士郎説は、白票が生じている時点で議長の裁決権行使を認めないので、議長裁決権は行使することができないこととなる。
それぞれの説には長所、短所が存在するので、それを踏まえた上で、各議会で採用すべき説を考え運用すべきである。