2022.10.27 政策研究
第31回 多数性(その5):自治体間連絡協議会
志向型
自治体は、環境の影響を受けながらも、住民の意向・世論や、首長などの為政者の志向を受けて、様々な政策選択を行う。環境が同じであっても、同じ政策課題が浮上し、同じ政策選択をするわけではない。とはいえ、全国に多数ある自治体間では、地理的遠近に関わりなく、同じような政策関心や政策課題を共有することがある。こうして、政策課題への志向性を反映して、自治体間連絡協議会が形成されることがある。
例えば、「全国生涯学習市町村協議会」というものがある。生涯学習とは、全ての市区町村にとって共通の課題になり得るものである。しかし、全ての市町村で、同じような優先順位にあるとは限らない。全国生涯学習市町村協議会は、一定程度、生涯学習を重視すると志向した市町村の集まりなのである。
「設立趣意書」によれば、
「21世紀に向かい豊かで潤いのある活力に満ちた地域社会を築いていくためには、人々が生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価されるような生涯学習社会の実現を図ることが不可欠です。一方、現在、心の教育の充実が大きな課題となり、教育における地域社会の役割や家庭教育の在り方が改めて問われています。さらに、高齢化・少子化・過疎化の進行に伴い、大きな政策課題となっている地域コミュニティの育成や地域振興に関して、生涯学習の理念に立ち、学校教育、社会教育、文化、スポーツ、社会福祉、職業能力開発等相互に関連する多様な施策を各自治体が主体的かつ積極的に展開することが一層求められています。
『地方の時代』といわれて久しく、また来るべき21世紀は本格的な『住民の時代』であり、そして住民にもっとも身近な『市町村の時代』であると言うことができると思います。
これからの時代は、こうした『市町村の時代』を実現するための社会資本、即ち公民館、文化・スポーツ施設等のいわゆるハード面での整備も依然として課題であり続ける一方、住民のネットワークづくり・活動の場づくりといった、言わばソフト面の整備が焦眉の急となっています。
そのため、われわれ志を同じくする市町村長が一堂に会し、それぞれの市町村の中で生涯学習を総合行政としてとらえ、地域をあげて住民が主役の『生涯学習まちづくり』を推進するとともに、関係機関・団体等と協力しながら、会員相互の連携を深める中で情報交換・政策研究などを行い、新しい時代に向けたよりよいまちづくりを推進するため、本会を設立するものです。」(傍点筆者)
とある。市町村長の志の要素が強い自治体間連絡協議会であろう。そのためか、「生涯学習まちづくり」は、一見すると、全ての市区町村で重視されそうなテーマでありながら、会員団体は、それほど網羅的ではない。会員名簿によれば、北海道内4、青森県内1、岩手県内7、宮城県内1、秋田県内1、山形県内2、福島県内2……というように、各都道府県内で見ても散在しているにすぎないという印象である(17)。
また、「風力発電推進市町村全国協議会」は、一見すると、風力発電施設所在市町村の協議会のようにも見えるので、「全原協」に似ている。しかし、実態は、会員相互間の緊密な連絡提携により、地球規模での環境保全や地球温暖化問題に対応するとともに、エネルギー需要の増大と資源の枯渇問題に対応するため、再生可能なクリーンエネルギーである風力発電の開発研究及び利用、普及を総合的に促進し、地域環境と地域振興に寄与することを目的として、賛同する自治体をもって組織された団体である(18)。
加盟市町村は、北海道稚内市・苫前町・寿都町・えりも町・せたな町・島牧村・江差町・上ノ国町、青森県外ヶ浜町・風間浦村・深浦町・六ヶ所村・横浜町、岩手県葛巻町・二戸市・釜石市、山形県庄内町、富山県入善町、石川県内灘町・珠洲市、茨城県常陸太田市、静岡県東伊豆町、鳥取県北栄町・大山町、山口県上関町、愛媛県伊方町、高知県檮原町・大月町、長崎県壱岐市・平戸市・五島市・西海市、熊本県産山村である。このほかに、賛助会員として、(株)市民風力発電、イオスエンジニアリング&サービス(株)、(株)北拓、(株)ユーラスエナジーホールディングス、電源開発(株)、日本風力開発(株)、コスモエコ・パワー(株)、(株)明電舎、日立造船(株)がいる。自治体だけではなく、民間事業者と組織化している点は興味深いところである。
風力発電推進市町村全国協議会の沿革は以下のとおりである。1993年5月に山形県立川町(現庄内町)で100キロワット風車が3基、運転を開始した。同町は、日本三大悪風「清川だし」を逆手にとり、まちおこしに利用しようと1980年から小型風車による農業への利用など、積極的に風力エネルギーに取り組んでいた。当時国内では、電力会社が試験的に風力発電機を設置している事例はいくつかあったが、自治体が大型風車機を建設した事例は少なく、愛媛県瀬戸町(現伊方町)、石川県松任市(現白山市)そして立川町の3か所であった。
3基のシンボル風車が運転を開始した翌年の1994年8月に、同町で「第1回全国風サミット」が開催された。風をテーマに地域活性化を進めている全国12市町村により、各市町村が活性化構想や現状を発表し意見交換したほか、「地球にやさしいクリーンエネルギーとして、日本における風力エネルギーの活用とPRに努力する」との共同宣言を採択した。地域おこしだけでなく、温暖化など地球規模の環境問題を新たに念頭に置き、欧米に比べ立ち遅れている国内の風力発電の開発、普及を推進する狙いから、立川町が全国に呼びかけ、1996年7月に「風力発電推進市町村全国協議会」が結成された。
1994年から開催されている「全国風サミット」は、開催地である市町村が主催となり、日本風力エネルギー学会及び協議会が共催し、数多くの関係団体の後援を受け、毎年開催されてきた。第20回(2019年度)はせたな町で開催され、コロナ禍を挟んで、第21回(2022年)は葛巻町で開催された(19)。
また、「福祉自治体ユニット」は、1997年11月に「地方分権の試金石」ともいわれた介護保険制度の推進を掲げる、基礎的自治体の首長有志が集まる任意団体として発足した。以来、福祉先進自治体としての経験を互いに学び合い、理論的かつ実践的に施策を考え、福祉を中心としたまちづくりを進めていると自負していた。さらに、2001年12月には、福祉自治体ユニットを母体に企業・団体なども加わり、官民による政策NPOとして「地域ケア政策ネットワーク」が設立された。地域ケア政策ネットワークでは、認知症サポーターキャラバンや介護サービス相談員、日本認知症官民協議会の全国事務局機能を担うほか、各種の調査研究事業などを行ってきた。
2020年4月に、両者の政策的趣旨と事業を一体的に引き継ぐものとして、特定非営利活動法人「地域共生政策自治体連携機構」(略称:c2p-A、地域共生機構)へと変改した。地域共生政策自治体連携機構は、少子・高齢化、人口減少社会における、地域共生施策に関する実践的な調査、研究、研修、システム開発、人材育成を通じ、地域共生社会の構築に寄与することを目的としている(20)。正会員は、自治体(市町村・広域連合)のほかに、株式会社(保険会社が多いが、住宅・宅食・ICT・新聞社などもある)、社会福祉法人、医療法人、学校法人などからなる。このほかに、特別会員として、旧「人口減少に立ち向かう自治体連合」の構成市町村がある。
「持続可能な地域創造ネットワーク」は、前身の「環境自治体会議」を受け継ぐものである。同ネットワークの設立趣意書によれば、「環境自治体会議」は、1992年のリオデジャネイロでの地球サミットのインパクトもあり、地域の社会・経済活動の基盤として環境を重要視する自治体が現れる中で、同年に発足した。2001年に環境首都コンテストが開始されるなど、各地の環境政策は相互交流と切磋琢磨(せっさたくま)を重ねてきた。また、この間、多数のNGO/NPOが生まれ、持続可能性への多角的アプローチの必要性を指摘・提案するなど、国や自治体の環境政策に対する影響力を高めてきた。
しかし、地方から大都市圏への人口流出、少子高齢化の進展、財政基盤の縮小など、自治体を取り巻く環境は厳しさを増しており、地域そのものの存続が危ぶまれる状況となってきた。2011年の東日本大震災と原子力発電所の事故は国内外に大きな衝撃を与え、環境・エネルギー政策をはじめ様々な社会制度を揺るがした。また、懸念されてきた気候変動の影響は現実のものとなり、激甚化した気象災害によって人命や財産が奪われる事態が、毎年のように各地で生じている。
こうした中、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とこれに包含される「持続可能な開発目標(SDGs)」は、あるべき社会像について共通の理解をもたらした。すなわち、多様なステークホルダーが連携し、環境・経済・社会の課題を統合し同時解決的に取り組むことで、地域と世界の持続性を高めていく社会の姿である。身近な地域から世界を変えていく実践に求められるのは、先駆者・先導者としての取組みであり、各主体が支え合うための主体間・地域間の「結び直し」である。こうした時代の転換点を迎えているとの認識に立ち、「環境自治体会議」や「環境首都創造ネットワーク」から、あらゆるステークホルダーとの連帯を拡大・深化させるため、新しい形のネットワークとして、「持続可能な地域創造ネットワーク」が2020年6月26日に発足した(21)。発足時の会員内訳は、27の市区町村、31のNPO/NGO、43の専門家・教育関係者、6の学生団体、4の賛助会員である。なお、「環境自治体会議環境政策研究所」は従来どおり活動を続けている。