2022.10.25 議会改革
第32回 自治体議会を支える─議会事務局のあり方探見─
3 政策立案と議会事務局
(1)事務局による補佐
自治体議会の機能の拡充として論じられているのが、政策形成能力の強化である。
そのためには、議員の意識と能力の向上が必要なことはいうまでもないが、それと同時に、それをサポートする議会事務局の体制の整備強化も必要となる。すなわち、議会での政策形成といっても政策提言や議員立法の取組みなど様々なものが考えられるが、その中核はやはり条例の制定ということになるだろう。そして、議会で自治立法を検討する場合、テーマや内容にもよるものの、議員だけでその作業を行うのは容易ではなく、その補佐役である事務局として、一定の役割を果たすことが求められる可能性が高いといえる。事務局として果たす役割としては、問題や立法事実に関する資料の収集や分析、関係法令・判例、他の自治体の立法の動向や先進事例の内容の調査、条例化のための論点や課題の整理、政策的な選択肢のメリット・デメリットの検討・提示のほか、議員の判断・方針・議論を踏まえた政策骨子の作成、さらには条例案の形式に整える起草、条例案のチェックなどが考えられるだろう。
しかしながら、それらに対応するための体制を整えることは、実際にはそう簡単ではない。
例えば、政策法務能力を有する職員の配置や職員の政策法務研修への参加などが、その方策としてしばしば語られる。しかし、小規模議会では、そのような余裕がないところも多く、また、政策法務能力を有する職員といってもその数やレベルもいろいろであり、たとえ政策法務に通じた職員を確保できたとしても、一人でできることには限界がある。ましてや、何度か研修を受けたぐらいで十分な対応ができるようになるほど、政策立案や条例起草は甘くはない。政策立案には関係行政分野の専門知識もそれなりに必要となる。
加えて、成立する条例は、執行可能なものでなければならず、それを所管し実施を担当することになる執行部局との協議・調整も必要となる。担当執行部局の理解や協力の得られない条例はその目的を十分に達成できない可能性があり、議会事務局としては、そのようなことにならないよう、担当執行部局とやり取りをし、了解等を取り付けておくことが大事となる。
いずれにしても、政策の形成やチェックのためには、一定の知識や情報、スキル、ノウハウなどが必要となるが、それには、それなりの人と時間と手間が必要といえる。その補佐を求められうる議会事務局の現実としては、普段から現にいる職員が政策や法務に関心をもち、その知識を身につけるようにするなど地道にその蓄積を図っていくほかなさそうだが、ただそうはいっても、議員の側から条例づくりに取り組みたいという話が舞い込めば、その途上であっても何らかの対応を迫られることになる。
そうなってくれば、たとえ試行錯誤的なものとなっても、実践を通じてスキルやノウハウを身につけていくことにならざるをえない。成功体験は自信だけでなく能力の向上と更なる意欲につながるのであり、失敗体験もまた次の糧となる。
他方、事務局だけでは対応に限界がある以上、戦略として、関係する執行部局の職員を積極的に巻き込んでいくようなことも必要だろう。現状では、政策づくりにその協力が不可欠であり、消極的となりがちな執行部局職員をうまく取り込み、必要な情報やノウハウを提供させるようにすべきである。議会と執行部との対抗関係や境界などの問題はあるが、現実的な選択肢として、議員の理解を得ながら、執行部局との協力体制づくりを模索していく必要もあるのではないだろうか。
このほか、これからの議会のあり方としては、住民の参加や協力を得ることも欠かせない。例えば、住民からの請願・陳情などによる情報も貴重であり、また、専門的な知識経験をもつ住民の支援を得ることも考えられる。住民との意見交換会の場を設け、これを積極的に活用して政策形成につなげていくことなども重要であり、これらを踏まえて、政策検討会議など議会で検討を行う仕組みを整備することも必要となる。それらの仕組みづくりや運用に議会事務局が積極的に関わっていく必要があることはいうまでもない。