2022.10.25 議会改革
第32回 自治体議会を支える─議会事務局のあり方探見─
結局、事務局の体制強化が各方面から求められながら、なかなか進まず、多くの議会事務局では現体制で臨むしかないのが現状である。そして、現体制でやれることには限界がある以上、役割の拡大に対応して業務の見直しを行うか、新しいことはできるだけ行わないようにするかということになってくる可能性が高い。議会事務局への過大な期待や強化論に困惑しているのは、実は現場なのかもしれない。それでも、多くの事務局で、献身的な努力が行われており、注目されるべき取組みが少なからず見受けられる。また、事務局職員によるネットワークが構築され、情報交換やノウハウの共有化の取組みなども行われており、全体的にバージョンアップしてきていることは間違いない。
最後に、体制強化の問題に絡んで人事の問題に触れておきたい。
議会事務局の職員の任免は、議長が行うものとされているが、それは形式的なものにとどまり、自治体の人事のローテーションの中で異動が行われ、執行部局から人事異動で議会事務局に配置され、また執行部局に戻っていくことが多いのが実際であり、そのことが、執行部局職員という意識が抜けなかったり、執行部側に戻ることを念頭に置いた事なかれ主義となったり、執行部側の反応ばかり気にした対応につながるなど、議会事務局職員の意識や姿勢に影響していることがしばしば指摘されている。それぞれの職員次第であり、あまりステレオタイプの見方をすべきではないとは思うが、人事のあり方が一つの課題であることは確かだろう。
このことは、職員の事務局在職期間にも影響することになり、中には生え抜きとも呼ばれるような長期間在職の職員が存在することもあるようだが、多くは3年程度、長くても4~5年の在職となっているようである。これでは、大半の議員よりも議会経験が少ないことになり、知識や経験の面で十分な補佐ができるのかが問われかねない。
そのような問題状況は、人事権の実質的な所在というよりも、実際の人事慣行の問題だとの指摘もある(9)。確かに、一般職の職員であれば、法制度上は、成績主義や人事評価によって任用が行われ、その身分の保障と服務が規定されており、全体の奉仕者である職員が奉仕すべきは、執行部局だろうと議会事務局だろうと、本来的には自治体や住民のはずである。ただ、このような建前を述べたところで、様々な力学が働く現実を前にしては、お題目で終わるだけということだろう。
人事をチェックする役割を議会に期待する議論もあるが(10)、議員が自治体職員の人事に関心を向けることは、執行部や恣意的人事への牽制(けんせい)になりうるとしても、諸刃の剣ともなりかねない。これまでにも、有力議員が、特定職員の人事に口を出したり、口利きをしたりする例は後を絶たないといわれ、それが情実人事や懲罰的人事にもつながっているとの指摘もある。議会が職員の人事に関心を向けるのは、政治的な介入を許すものではなく、執行部における恣意的な人事を監視・抑制するためのものだとしても、人事は権力ともなりうるものであり、政治に理性的・謙抑的な対応を求めるのは難しいところもある。現在のような人事のシステム・慣行・状況が望ましいというわけではないが、下手にいじるとむしろやぶへびにもなりかねない。
以上のように、議会事務局の体制強化の議論は、袋小路に入り込み、堂々巡りともなる。そうであれば、せめて、日々の対応に追われる現場の職員などが諦観やシニシズムにかられることにならないような配慮も、議論をする側の作法として、必要なのではないだろうか。
(1) 任意設置とされている市町村議会でもほとんどの議会が事務局を設置しており、市議会ではすべて事務局が設置されているといわれ、また、町村議会についても、全国町村議会議長会「第67回町村議会実態調査結果(令和3年7月1日現在)」(以下「67回町村議会実態調査」という)によれば、事務局を設置している町村は920町村(99.4%)、未設置は6町村(0.6%)となっている。
(2) 書記に関しては、そのほか、「市(町村)会ハ書記ヲシテ会議事録ヲ製シテ其議決及選挙ノ顛末並出席議員ノ氏名ヲ記録セシム可シ」と規定されていた。
(3) 内務省『改正地方制度資料・第1部』(1947年)地方制度改正関係答弁資料1244頁、自治大学校研究部監修・地方自治研究資料センター編『戦後自治史 第一巻』(文生書院、1977年)「戦後自治史Ⅱ」64~65、69、71、155~156頁。
(4) 自治庁『改正地方制度資料・第6部』(1951年)123頁。
(5) 例えば、多摩市の議会基本条例では、議会事務局の役割として「議会の政策立案活動、調査活動等を補佐する役割」が規定されるなど、議会基本条例等でこれを明記するところも見受けられる。
(6) 議会事務局が会派ごとに担当職員を決め各会派の活動をサポートしている大阪府議会では、公務員としての立場や中立性の問題を意識し、会派の運営や政務調査をサポートすることで円滑な議会運営を図るという趣旨で職員を携わらせることとし、議会運営に直接の関係がない政治的な会合などに関わってはいけないものとされているという。ただ、そうはいうものの、会派の意思形成過程に立ち会う中で、議会運営の話がいつの間にか選挙の話になり、その場に職員も同席していることもあるという。「【パネルディスカッション】議会事務局は何をどこまでできるのか~議会、委員会、会派活動別に(上)」議員NAVI 2019年11月25日号参照。
(7) 事務局体制を示す指標として、議員1人当たりの事務局職員数といったものがあるが、都道府県議会はおおむね0.5を超えており、東京都議会は1を超える一方で、規模の小さい市町村議会では0.2前後にとどまる。そのような中で、議員への対応に差が生じるのはいわば当然ともいえるだろう。
(8) 小規模の市町村議会では、図書室を設けていないところも少なくない。また、地方自治法100条17~19項は、政府は、都道府県議会に官報及び政府の刊行物を、市町村議会に官報及び市町村に特に関係のある政府の刊行物を、都道府県は、区域内の市町村議会及び他の都道府県議会に公報及び適当と認める刊行物を送付しなければならず、議会は、議員の調査研究に資するため、送付を受けた官報、公報及び刊行物を保管して図書室に置かなければならないものとされているが、それらの資料は無料でなくてもよいとされ、実際には有料となっていることなどもあって、それを保管しているところはさらに少ないといわれる。
(9) 金井利之「議会のための職員人事のトリセツ」議員NAVI 2019年9月25日号。
(10) 金井・前掲注(9)参照。そこでは、首長による人事権力の専断の防止と議会強化の観点から、議会事務局職員だけでなく、執行部局職員の人事にも議会が関心をもつ必要が説かれている。
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